Chapter 29-16
その後、アルムは広い屋敷の中を、順に見て回った。1階の、かつて自分たちが生徒であった時に使っていた部屋から、医務室から、2階はラルドたちの部屋から、3階は入ったことのない部屋まで、見られる場所は全てだ。その結果、さらに分かったことがあった。
被害に遭っているのは、ラルドたち4人だけではなかった。医務室にはラルドの妹のフェアルが、2階の廊下には双子のセルとルイが、3階の部屋にはこの屋敷の主であるレグルスが、そして廊下や部屋のいたるところには屋敷のお手伝いと思われる人たちが。
それらが全て、まるで最初からそうであったかのように動かなくなっていた。手を触れてみても、何も起こらない。色づいた指先が灰色の身体に触れても、ただ石のような冷たさをアルムの指先に伝えるばかりだ。
だが…アルムはもう1つ気づいたことがある。屋敷の中にいるはずの、他の生徒たちが1人も見当たらないのだ。
アルム「みんな…どこに…!」
動かずにはいられないアルムは、屋敷を飛び出し、裏庭に回った。しかし、やはり誰もいない。
もしかしたら、港や街の方にいるのでは…そんな思いが頭をよぎり、アルムはすぐに駆け出した。
港には、船は見当たらなかった。が、そこにいた十数人の船員らしき人たちは、全員石と化していた。その中には、アルムと親しい者の姿はない。
となると、街の方か。アルムはすぐさま振り返ると、また再び走り出した。港の中は、1色ではなかった。海の水だけは灰色ではなく、いつもと変わらぬ青を湛えていたのだ。しかし、今のアルムにそれを見る余裕はない。海の方には目もくれず、港を飛び出し、メインストリートを目指す。この時、アルムは薄々と感じていた。この街の中には、仲間たちはいないんじゃないか、と。そうであれば、ここを捜しても見つかるはずはない。
しかし、捜さずにはいられない。とにかく、ある一点の場所でじっと動かずに時間の経過を待っている行為が、今のアルムには堪えがたく、到底出来るものではなかったのだ。
とにかく、街の方を捜そうと決め、港を飛び出して屋敷の前を横切る道にさしかかった時。
アルムはふと足を止めた。色を持った1人の男が、屋敷の前に立ち、辺りを見回していた。
???「こいつは…どうなってるってんだ…!?」
その声には、聞き覚えがあった。アルムは男に近づき、そして確信して声をかけた。
アルム「…アランさん…?」
〜続く〜