Chapter 29-13
そなたを「選んだ」のは私でない私だ。だが、そなたを「選ばれし者」に仕立てたのは私である私だったのだ。奴にとっては、私の精神がまだ生きていたことが予想外の出来事だったのだろう、それを知った今度はそなたを消そうと躍起になった。それは私自身がよく知っている。
だが…1つ気になるだろう。なぜザルグは、私が選ばなかったそなたを選んだのか。それは、ある者の予言を聞いていたからなのだ。私はザルグの内を垣間覗き見た。奴はしきりに、2つのお告げと思しきことを呟いていた。そのうちの1つが、これだ。「我が存在を脅かす者、雷をその手に闇を裁く。その名を、アルムとする」…とな。レイズが操られていた時、私の中の奴はアルムという者の存在を認めた。そしてそなたにわずかな力を与え…予言に示された者かを確かめようとしたのだ。
アルム…今までそなたは、自らを責めたことが何度かあっただろう。そして、自分が「選ばれし者」なのかそうでないのかで悩んだことも。
今、ここに告げよう。アルム=レンバート…そなたは紛れもなく「選ばれし者」だ。その手で闇を祓い、世界を光で照らすのだ。
そして、最後になったが…そなたがこの運命を背負ったのは、端を発せば私が闇に負けたことだ。本当に申し訳なく思っている。どうか、この通りだ―――。
◇◇◇
これが、天界王の言葉だった。
話を聞き終えたアルムは、天界王に歩み寄って、こう言った。
アルム「…よかったです。ぼく、やっぱり「選ばれし者」だったんですね」
天界王「…そうだ、しかし…」
アルム「ぼく、騙されてたって知らされた夜に、一晩中ずっと泣いてました。何もできなかったことや、騙されてたのに気づかなかったことが悔しくて悔しくて…。ぼくの戦う意味が無くなっちゃったんじゃないか、って。だけど、今は別の意味で後悔してます。どうして、4ヶ月も無駄にしちゃったんだろ、って…」
アルムは俯き加減に、そして後ろめたそうに声を小さくする。
アルム「…もしかしたら、そのせいでぼくは負けちゃうかもしれません。だけど、そうだとしてもぼくは諦めません。諦めたくないんです」
再び戻った声量と、決意を固めたような強い眼差し。天界王はそれを目にして、「…よく言ってくれた」と、わずかにかすれた声で言った。