Chapter 29-11
リズ「…なんですって?」
天界王「まだ分からぬか…それでは己の目で確かめることだ」
非現実的な言葉に、ただ沈黙しているアルムたち。が、天界王の言葉は続く。
天界王「…私の恐るる者は、かつての勇者とその仲間…ただそれだけだ」
セイファー「…っ、まさか…!」
天界王「…気づいたか、セイファーよ?では、あの男がお前たちを生かしたのも説明できるな?ディルに課した仕事は…目的を遂げた時、その仕事に意味が無くなるものだ」
何となく言いたいことは、セイファーには理解できた。つまり、天界王が何かをしている間の時間稼ぎとして、ディルは自分たちと戦っていたのだ。そして、それが終わった時、ディルは手を止めたということだろう。
天界王「もはやこの世界に待つのは大いなる闇のみ…これを止める術はもう他にない。そして…この身体にももう用は無い…」
はっとして、アルムは天界王を見上げる。そこにあったのは、両手で天を仰いだまま、狂気じみた笑いを浮かべた天界王の姿だった。
天界王「アルム=レンバートよ、私を倒したくば倒すがよい。だがその時、そこに倒れているのは私にあらず…!」
そう言うと、天界王の身体から霧のような何かが吹き出した。それはしだいに空中へと霧散し、消滅して見えなくなった。
だが、それを気にしている余裕はなかった。倒れ込んだ天界王を支えるのに、3人は必死だったのである。
倒れ込んだ天界王の身体は、鉛のように重たく感じられた。その身体を、どうにかして地面に横たえたが、顔色も青白く、もしかして死んでいるのではないかと、アルムたちは不安になった。
だが、数分してから、セイファーが思い出した、と呟いた。
セイファー「これ…レイズが元に戻った時と似てる気がする…」
アルム「…本当に…!?」
セイファー「うん…ほとんどいっしょだよ…!」
やがて、死人のようだった天界王の顔色が戻ってきた時、セイファーの思いは確信に変わった。
セイファー「もうすぐ…目を覚ますはずだよ…ほら!」
目を覚ますはずだと言い終えた瞬間、天界王の眼がゆっくり開かれた。それを見て、3人が安堵したのは言うまでもない。
天界王「私は一体…」