Chapter 29-9
それから何分経っただろうか。しばらく全身を苛まれるような痛みと闘っていたアルムだったが、やがて自分が回復呪文を唱えられることを思い出し、ホイミを繰り返してどうにか傷を癒すことはできた。
アルム(2人も…治さなきゃ)
アルムは起き上がって、順に2人に何度もホイミをかけた。その甲斐あって、3人の傷はなんとか回復した。
セイファー「ありがとう、アルム。あっ、これ…使って?」
傷が癒えたセイファーが取り出したのは、魔法の聖水2本。アルムはそれを素直に受け取り、自らの身体に振りかけた。すると、自分の魔力が回復することが感じられた。アルムはセイファーに礼を言ったが、セイファーは俯いていた。
セイファー「…やっぱり、ボクたちじゃ天界王なんて倒せないのかな」
そうぽつりと呟くセイファーに、アルムは声を張り上げた。
アルム「だめだよ、諦めちゃ!ぼくたちは天界王と戦いに来たんだ!天界王のところに行かなきゃ!」
言いつつも、実はアルムも自信を失くしていた。ディルの強さをまざまざと見せつけられ、自分の無力さを改めて知らされた。どう考えても、ディルを上回る力を持つ天界王にこのまま挑んでも、勝てる見込みは全くない。
しかし、それとは別に不可解な点がある。それは、先ほどのディルの言動だ。なぜ「ルプガナに戻れ」と忠告したのか。そしてなぜ、自分たちをここで殺さなかったのか。考えてみても、皆目見当がつかない。
リズ「だけど、私たちじゃ天界王には勝てないわ…」
落胆した様子のリズの声は、ほとんど消え入るようなものだった。が、アルムはもう一度考えてみた。絶対何か意味があるはずなのだ。
アルム「…ディルさんがぼくたちを殺さなかったのは、ぼくたちに「天界王に会いに行け」っていうことかもしれない。ここまで来たんだし、行ってみなきゃ」
確かに、ここまで来たからには、最後までやり遂げたい。天界王は、もうすぐそこにいる。目の前に見えているあの建物の中に、天界王はいるのだ。
セイファー「そう…だね。勝てなくても、ぶつかって行かなきゃだめだよね」
アルム「そうだよ。ね、もう1回だけ頑張ろうよ」
リズ「…分かったわ。一度死んだ身だもの。覚悟はできたわ」
もう一度、3人は互いの意志を確認しあった。そして、それを確かめると、天界王のいる神殿へと足を進めた。