Chapter 29-7
その姿は、できることなら出会いたくなかった人物だった。もう言わずとも、その正体は知れているだろう。
アルム「ディルさん…!」
ディル「なんだ、またお前か、アルム。ラダトームで会ったばっかだってのに…」
リズ「どうしてこんなところにいるんですか…?」
ディル「そんなこと、教える必要はねえよ。それより…」
ディルは人差し指を立て、3人に突き出した。そして、声を低くして、真面目な表情でこう言った。
ディル「1つ忠告しといてやる。今すぐ、ルプガナに戻れ」
リズ「なんですって…?」
アルム「そんなこと、できるわけありません!ぼくたちは天界王を倒さなきゃいけないんです!」
ディル「お前たち3人だけでか?」
アルム「っ…!」
きっぱりとそう言われて、アルムは言葉に詰まる。確かに、勝てる見込みは低いだろう。だが、それでも。
アルム「…だけど、諦めたらそこで終わりですから…!ぼくたちは、天界王にぶつかります」
リズも、セイファーも思いは同じだった。初めから何もしないより、何かをやって悔やむ方がまだ良い。
ディル「…そうか。そりゃ残念だな、俺がせっかく忠告してやったってのに…後で後悔しても知らねえからな…」
アルム「…自分が選んだことですから。ぼくたちは、この先に行って天界王と戦います」
アルムもまた、きっぱりと自分の思いを告げた。その時、ディルの口元がわずかに歪んだように見えた。
ディル「…よく言った。けど、こっちとしてもここを通すわけにはいかねえんだ。通りたけりゃ、力ずくで通ってみるんだな…」
鞘から剣を抜いて、剣先をアルムに向けるディル。これは避けて通ることの出来ない戦いだと、アルムは直感した。
アルム「…望むところです!」
アルムの方も、剣を胸元で構えた。その目は、まっすぐディルを見据えている。リズとセイファーも、武器を出して構えをとった。
ディル「…行くぜ!」
ディルの声が上がる。かつての師弟対決―――己の信念を懸けた戦いの火蓋が、今切って落とされた。