Chapter 29-6
こうなれば、誰がここに残るのか、という疑問が浮かび上がる。
自然に訪れた沈黙を破ったのは、アレクであった。
アレク「…よし、僕はここに残るよ」
アルム「えっ!?」
思わず、声が裏返るアルム。一番ないと思っていた選択肢なのに。
アルム「ちょっと待って下さい、それならぼくが…」
アレク「いいや、ダメだ。きみは行かなきゃならない」
縋るようなアルムの言葉を、アレクは首を横に振ってすっぱり断ち切った。
アレク「考えてごらんよ。僕はどっちかと言えば魔法使いなんだ。たとえ最上級呪文でも、天界王に十分通用するかは分からない」
アルム「………」
アレク「それだけじゃない。ルプガナに戻って、次の手だてを考えなきゃ。戦う相手は、天界王だけじゃないんだ。分かるでしょ?」
何だか、納得がいかない。アルムはそう思ったが、アレクはもう自分の考えを曲げる気はないらしい。そうなると、ここでこうして議論するのも時間の浪費になると考え、アルムは節を屈した。
アルム「…分かりました。じゃあ、よろしくお願いします」
アレク「うん。さて、もう1人だけど…」
エド「じゃ、おれが残るよ!さっき、まだ技があるって言ったけど、未完成のやつばっかだからさ」
エドは言うなり、魔法陣の中で座り込んだ。もうこの場から動かないようだ。
結局、天界王の元へ向かうのはアルム、リズ、セイファーとなった。3人は残る2人と別れの言葉を交わすと、開かれた大きな門をくぐり、天界の中枢へ入り込んだ。そのしばらく後、彼らを迎え入れた門は、再び静かに閉ざされた。アレクたちが、ルプガナに戻ったようだ。
アルム「もう…後戻りはできないってことだね」
リズ「ええ…天界王を倒さなきゃ、私たちは帰れない」
セイファー「向こうに見えるあの建物に、天界王がいるよ。頑張ろうね!」
互いに頷き合って、3人はやや遠くに見える建物に向かう。アルムとセイファーは、あの神殿に入った経験まであるが、リズは雲の上を歩くこと自体初めてだったので、しきりに辺りや足下を見回していた。
その時、左の方から何者かの声が聞こえた。それは、何かを知らせるような大きな声。
*「見つけたぞ!!アルム=レンバートがいた!!」
アルム「!!」
アルムは一瞬固まって、それから2人の方を向いた。そして、一言。
アルム「ぼく忘れてた…狙われてるんだ」
セイファー「早く逃げよう!」
3人はすぐさま走り出す。兵が集まってくる前に、あの神殿の方へと。
迅速な判断と逃走の甲斐あってか、アルムたちは兵士をうまく撒きつつ、建物に近づくことができた。「ここまでくれば大丈夫」と、セイファーはほっと一安心。だが、安心するにはまだ早かった。
???「こんなところまで来て…わざわざお疲れさん、だな」