Chapter 28-10
ディル「ま、とにかく今日は、お前らとやり合いにきたわけじゃねえから。俺はそろそろ行くぜ」
タア「…待てよ」
4人の側を通り過ぎようとするディルを、タアが呼び止めた。すると、ディルはぴたりと足を止め、こちらを振り返った。
ディル「何だよ?俺はそろそろ行くっつったのが、聞こえなかったのか?」
タア「何寝ぼけたこと言ってんだ?オレらは、やり合うつもりでここに来たんだ」
大剣を抜いて、ディルに向けるタア。ディルはその剣先をちらりと見た後、無言で背を向け、再び歩き始めた。
タア「…てめぇ…!」
無視されたことに怒りを感じたのか、タアは剣をぐっと握り締め、ディルの背中に斬りかかった。しかし―――ディルはまるで背中に目があるかのように、その攻撃をひらりとかわした。それも、大の男1人を持った状態でだ。
ディル「…ずいぶん偉くなったな?」
発せられた声は、先ほどよりも冷ややかだった。
ディル「覚えとけ。剣ってのは、こうやって振るんだ」
鞘から抜いた剣を、そのまま後ろに一振りする。タアが身動きをとる前に、両腕と胸の辺りに横に入った切り傷を作った。
タア「…っ…!!」
レイシア「タア!!」
剣を床に突き立て、うずくまるタアに3人が駆け寄る。その時には、ディルは天井が崩れた部屋の隅から、空高く舞い上がっていた。
◇◇◇
アリュード「あっ!帰ってきたよ!」
ラダトームの城下町入り口。固まって待っていた中で、アリュードがいち早くクラリスたちの帰還に気づいた。
クラリス「…あなたたち、敵は…?」
ラルド「見ての通りだ。一帯の兵士はすべて倒した」
言われて初めて、周りに転がっている大変な数の兵士たちに気づく。これをたった4人で倒したとは…。そう思ってラルドたちに視線を戻すと、なぜか6人いた。
アルム「あれ、セイファーにレイズ…」
セイファー「やあ。偶然戦ってるところを見て、加勢しに来たんだ」
レイズ「うん。それより、さっき聞いたんだけど、偽大臣は捕まえたの?」
「偽大臣」という言葉を聞いて、4人の表情が一様に曇ったのを、ラルドたちは見逃がさなかった。