Chapter 25-8
しばらくの間、辺りには埃による煙が漂い、パラパラと塵の舞い落ちる音が響いた。その後に訪れた静寂を破るように、ザルグの声が煙の中から聞こえた。
ザルグ「これは驚きだ…これほどまでに凄まじい攻撃を繰り出してくるとはな…」
声のした方を慎重に見る。やがて視界を遮る煙が消え失せ、その向こうに広がる景色が、そしてその手前に立っているザルグが目に映った。驚くべきは、ザルグの体にラルドの今の攻撃による傷が一切見当たらないことだった。
ラルド「…お前、あの距離で今の攻撃をかわしたと言うのか?」
ザルグ「かわす?冗談を。そのような隙を与えなかったのは、技を繰り出した貴様が一番知っているだろう?」
ラルド「…それは、お前は技を受けたが傷は受けなかった、ということか?」
ザルグ「己で考えることだ。私が答える必要性は全く無い」
そう言い切って、また鋭い目つきで全員を見るザルグ。先のラルドの攻撃を受け付けなかった現実を目の当たりにして、アルムたちの心の隅には恐怖が芽生え始めていた。いつ来るかと、わずかに震える手足に力を込める。しかし、ザルグは攻撃してこなかった。そればかりか、ラルドたちに向かってこんなことを言い出した。
ザルグ「…今日の所は退かせてもらうとしよう。今ここで貴様ら全員を殺すには、確実に時間がかかりすぎる。少し甘く見過ぎていたようだ」
ラルド「…それは好都合だな。今、私たちは先を急ぐ身だ。それに、ここは十分に戦える場所ではなかったからな」
驚く様子もなく、淡々とはなすラルド。この対応が一番事を早急に終わらせられる、ということを知っているのだろう。
ザルグ「それでは勇者の仲間たち、そして後釜よ、これだけは覚えておけ。秘めたる思いは、やがて世を飲み込む…はっはっはっは…!」
高く笑い声を上げながら、ザルグは姿を消した。そうして、どうにか船上に平穏が戻った。
ラルド「…整理すべき情報が、一度に増えすぎたな…」
そう小さく呟くラルドに、ユリスがこう迫った。
ユリス「ラルドさん…さっきの言葉の意味を、説明してくれますよね…?」
ラルド「…分かっている。逃げはしない。だがダーマに着いてからだ。それまでは…悪い、頭が回らない…」
この言葉を信じて、ユリスはダーマに到着するまで、何一つラルドたちを追及しなかった。