Chapter 21-10
入ってみると、ムーンブルクの王の間は随分シンプルであった。以前アンナが踊った時に入ったラダトームのそれと比べると、はるかに質素な造りになっていた。5人はゆっくりと玉座に近づいていった。ところが、そこには誰も座っていなかった。もちろん、周囲を見回しても王らしき人物は見当たらない。すると、鎧に身を包んだ男―――おそらくは兵士長か何かであろう―――が脇の扉から姿を現した。
*「これはこれは、遠路をはるばるご苦労です。しかしあいにく、国王陛下はただいまご不在です。何かご用件がございましたら、私がお話を伺いますが…」
セレイス「お初にお目にかかります。ルプガナ教習所より参りました、アレク=セレイスと申します。実は、最近世界各地で起こっている異変の調査をしていまして、こちらにおかれては何か変わったことなどはないかと思い、お伺いした次第です」
お互いが丁寧に話すのを、アルムたちはただ見聞きしていた。兵士長らしき男はセレイスの話を聞いて、小さく頷いて答えた。
*「確かに、最近はこのムーンブルク地方にも異変が起こっています。それに関する情報がまとめてありますので、良ければご覧になって下さい。転写して頂いても構いません」
そう言って、その男は5人を図書室らしき場所に案内した。しかし、これが彼らの度肝を抜いた。
アルム「…すごい」
ルーナ「本がたくさん…」
まともに言葉が出ないほどの広さ。それはつい今し方入っていた王の間に匹敵する大きさで、そのありとあらゆるところに本棚が、さらにその中に無数の本が敷き詰められていた。
*「国王陛下の命で、世界中ほぼ全ての本が収集されています。ムーンブルクは情報を重んじる国家ですので…資料はこちらになります」
男は部屋の入り口にある看板を指差した。『近況報告』と題して、何枚かの紙に文字が書かれている。セレイスはすぐに、それを手帳に走り書きし始めた。
◇◇◇
30分後、5人は早くもムーンブルクを出ようとしていた。「王に会わなくていいのかよ?」と問うタアに、セレイスは「国を回って、異変を調べるのが仕事だから」と説明した。
セレイス「それじゃ、一旦ムーンペタに戻ろうか」
言うが早いかセレイスは歩き始める。随分と急ぎ足の旅に、アルムたちも少々戸惑いを感じていた。