Chapter 20-1
セレイス「…ロエンは震えてたんだね?」
アルム「はっ、はい…へっくしゅ!!」
シェルト「それで、怯えた様子で走って行ったということですね?」
セリス「…はい、そうですけど…ゴホッ、ゴホッ…!!」
リリザの宿屋の一室。今、この狭い2人部屋に、アルム、セリス、セレイス、そしてシェルトの4人が集まっている。しかも、アルムとセリスは火照った顔で、ベッドで寝込んでいる。この状況を説明するには、2日前まで遡る必要がある。
◇◇◇
アルム「…ぼくは、あきらめないよ!」
セリス「…そんなこと言ったって、あいつがどっちに行ったかも分かんねーぞ…?」
アルム「いや、下を見て!」
アルムにつられて、地面に目を落とすセリス。すると、濡れた砂地にはくっきりと足跡が残っており、西へと続いていた。雨が再び降るようになったとは言え、そう短時間で砂漠は元には戻らない。まだまだ地面は砂だらけなのだ。
アルム「…サマルトリアの方だ、たどって行こう!」
セリス「…仕方ねー、俺も付き合うぜ!」
相変わらず雨は強く、2人の頭を、背中を容赦なく叩く。それでも、2人はロエンの足跡を追って走り続けた。
季節は真冬、当然2人の体は芯から冷やされる。さらに懸命に走ったせいで、わずかに汗ばんでもいたから尚更である。こんな状態では、風邪を引かない方がおかしいだろう。
案の定サマルトリアにたどり着いた頃には、すでに2人の頬は紅潮し、息も荒くなっていた。そうして、足跡を見失った夜中のサマルトリアの道具屋の前で、2人は倒れてしまったのだ。
◇◇◇
セレイス「…まったく、本当に呆れるよ、あんな寒い雨の中を、ずぶ濡れで走り回るなんて!それに夜中にあんな所で倒れてて…僕たちがたまたま見つけたから良かったけど、君たちまでどうにかなったら、もっと大変なことになるんだよ?」
その後、サマルトリアの道具屋に立ち寄った2人に発見され、明け方過ぎにここに運ばれたわけである。昨日1日中は眠っていた2人だが、今朝方目を覚ましたのだ。
アルム「はい…ごめんなさい…ゴホッ…でも…」
セレイス「でも、は無し!ほら、きちんと寝ないと治らないよ!」
シェルト「アレク、その辺にしましょう。彼らも眠れないでしょう」
最初にロエンの話を聞いた時はやや興奮していたセレイスだったが、そのうちに落ち着いてきたのか、2人の自らを顧みない行動に多少怒っていた。が、シェルトがああ声をかけると、さすがにセレイスも口を閉じた。
セレイス「…ちゃんと寝るんだよ?」
セリス「はい…すいません…へっくし!」
セリスのくしゃみを背に聞いて、セレイスとシェルトは部屋を出て行った。