Chapter 14-14
レイシア「…リズ、お願い。顔を上げて」

しばらく経って、レイシアが静かに言う。すると、リズは素直に覆っていた両手を外し、顔を上げた。彼女は聞き分けの無い子供ではない。

レイシア「…私やアルムが、今まであなたが苦しんできた内容を知っちゃいけないのかも知れないわ。一部だけ聞かされて、その苦しみを知ったつもりになって、余計にあなたを傷つけてしまうから…。だけど」

レイシアが言葉を切ると、後に続く言葉が分かっていたアルムが続けた。

アルム「全部知ることができたら…何もかも話してリズがちょっとでも楽になれるなら、ぼくたちは力になりたい。いつも1人か2人っきりでいるんじゃなくて、ぼくたちとも話をしてほしいんだ」

言うべき内容が合致していたようで、レイシアは頷いた。が、リズはかぶりを振って言い返した。

リズ「全部話しても…私の過去は返ってこないわ。それに…私の望みが叶うわけでも…」
アルム「望みって…」
リズ「この目よ!この目のせいで…私は今まで…っ…ずっ…と…」

リズの両目から、涙が零れる。その後ろでユリスは、何を言ってやればよいのか分からないようで黙っていた。が、レイシアたちは諦めなかった。

レイシア「…この世に生まれることを、自ら望んで生まれてきた人なんて1人もいないわ…でもね、「生まれてきて良かった」って思える時が、絶対にいつか来るはずなの。過去は変えられないけど、未来にはいくらでも道があるのよ」
アルム「そうだよ、目の色が違ったって、同じ人間でしょ?それを気味悪がって、傷つけるような人が悪いんだ。リズは何も悪くないよ。目の色だって、他の人にない自分の個性って考えたらいいんじゃない?ぼくが言っていいのか分からないけど…そうやって言われる人たちから逃げてたら、いつまで経っても言われ続ける気がするんだ」

暫しの間、沈黙が流れた。やがて、リズは再び顔を覆って、小さく声を上げて泣き出した。

アルム「リズ!?ご…めん、ぼく、何か悪いこと言って…」
リズ「違う…違うの!あんなこと言われたの、初めて…だから、嬉しくって…」

リズの言葉を聞いて、アルムとレイシアは顔を見合わせて微笑んだ。そうしてしばらく待っていると、やがて落ち着いてきたようで、リズは涙を拭って2人に言った。

リズ「…2人とも、ありがとう。あなたたちになら、辛いことも話せるわ…」

そう言うと、リズは故郷の村でのことを話し始めた。早くに両親を亡くしたこと、それからずっと疎まれ、迫害され続けてきたこと…。全てを話し終えた時のリズの表情は、すっきりした、という顔であった。

レイシア「今まで…ずっと辛い思いをしてきたのね…」
アルム「ぼく、そんなに辛かっただなんて思ってなかった…ごめんね…」

聞かされた話が思った以上に重かったので、2人は少し声を落とした。しかし、リズははっきりとした声で言った。

リズ「いいの、気にしないで。あなたたちには本当に感謝しているわ。これからは…少し周りの人も頼ってみることにするわ…ユリスだけじゃなくて、ね…」
ユリス「そう。アルムもレイシアも、みんな良い人なんだから。頼れる相手は、きっとたくさんいるわ。わたしも、ずっとリズをサポートするけどね」
リズ「そうよね…これから頑張るわ。今、初めて「生きてるのも悪くない」って思えたから…」

微笑むリズは、以前とは別人のように見えた。それに合わせるかのように、雲の切れ間に覗いた太陽から、清々しい光が四人に降り注ぐ。自身の心に鍵をかけた者はもう、この海岸にはいなかった。


〜続く〜
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