Chapter 14-13
ベラヌールからずっと西の海岸に、2人の人影が見えた。それは、濁流の中を掻き分け泳ぎ着いたレイシアとリズだった。この頃、既に雨は小降りとなっていた。
レイシア「はぁ、はぁ、はぁ…!リズ、大丈夫…?」
リズ「だっ…だいじょう…ぶ…ケホッ、ケホッ!!」
息も絶え絶えながら、リズははっきり答えた。水をかなり飲んでしまったようだが、どうやら無事なようだった。
レイシア「良かった…。後は…アルムとユリスだけど…大丈夫かしら…」
リズ「…ユリス…!」
レイシア「…リズ?」
リズ「お願い…ユリス、無事でいて…!」
リズは俯いて、手を組んで祈るように呟いていた。レイシアはその様子を見ると、まだ荒れている海に目を向けた。すると―――。
レイシア「…アルム!!」
レイシアが立ち上がって手を振る。リズもその方向に顔を向けると、アルムが懸命に何かを担いで泳いで来るのが見えた。そして、その「何か」の正体が分かった瞬間、リズは海へと駆け出していた。
リズ「…ユリス!!」
アルム「リズ…ユリスを…!」
アルムはユリスを抱えて泳いで来て、疲労困憊だった。リズは頷き、アルムに肩を貸した。
レイシア「…本当、みんな無事で良かったわ」
アルム「そうだね…」
アルムによると、途中でユリスは泳ぐ力が尽きたらしく、そこから彼女を背負って泳いで来たらしい。ユリスはというと、ぐったりしてはいたが辛うじて意識はあった。しばらく休むと、ほぼ普通に話せるほどに回復した。
リズ「…どうして」
アルム「…え?」
リズ「どうして私たちを助けに来たの…!あなたたちだって、助からなかったかも知れないのに…」
リズは震えながら言った。濡れた体でこの季節、外にいつまでもいては当然であるが、それだけが原因ではないようだ。
アルム「どうして…って、リズたちが流されてるところを見たから、危ないって思って…」
そう、助けたことに深い理由などないのだ。ただ瞬時の判断の結果が、これなのだ。
リズ「…私なんて、放っておいてくれれば良かったのにっ…!」
そう言ってリズは両手で顔を覆う。普段寡黙なリズからは想像もつかないような声と表情。その言葉は、今まで彼女がどんな人生を送ってきたかを物語っていた。