Chapter 10-9
その夜、アルムは予定通りの時間にセレイスと出会った。

セレイス「じゃ、僕の部屋に行こうか。これ、食べてくれる?」

そう言ってセレイスが取り出したのは、アルムが見たことのない草だった。薬草や毒消し草とは少し違った。

セレイス「心配しなくていいよ。それは消え去り草って言って、少しの間姿を消してくれるんだ。レムオルの呪文があればいいんだけど、僕は使えないから…」
アルム「先生でも、使えない呪文があるんですね…」
セレイス「そりゃね。何もかも出来る人なんていないよ。君たちがよく知ってるキースだって、剣の腕はすごかったけど呪文はほとんど…」
アルム「どうしてキースさんのことをそんなに知ってるんですか?」
セレイス「…彼の戦ってるところを、見たこともあるし聞いたこともあるからさ。じゃあ、悪いけど食べてくれるかな?そうしたら、僕について来て」

アルムは消え去り草をほとんど噛まずに飲み込んだ。するとあっという間に、自分の体が消えていった。驚いている暇もなく、アルムは慌てて歩き始めているセレイスを追いかけた。

◇◇◇

セレイス「そう何回もここに来てたら怪しいからね。一応帰りの分も渡しておくよ」

アルムは消え去り草を受け取り、懐にしまった。

そこでしばらく沈黙が続く。しばらくしてようやくセレイスが口を開いた。

セレイス「朝はありがとう。全部話してくれて、嬉しかったよ」
アルム「…はい」

素直に「嬉しかった」などとあまり言われないアルムは、少し恥ずかしげに俯いた。

セレイス「僕は、セイファーとレイズの気持ちがよく分かる気がする」
アルム「え…?」
セレイス「昔…僕にもいたんだ。そういう目に遭った友達がね…」

セレイスは遠くを見るように窓の外に目を向けた。

セレイス「僕は必死でその人を探した。それで、やっと元に戻すことが出来た。仲間のおかげでね…」
アルム「そうだったんですか…知らなかったです」
セレイス「うん、そうなんだ。自分の親友を倒しに行ったわけだから、内心セイファーも辛かったと思うんだ。でも、それを乗り越えた。その2人は、きっといい天使になれるよ」
アルム「そう…ですよね。でも…」

アルムがそこで口を閉ざす。しかしセレイスには、アルムが何を言おうとしたかが分かっていた。
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「見えない臓器の名前は」
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