Chapter 10-5
レイシア「ああ、アルム!………それどうしたの?」
いきなり来た。確かに、毎日過ごしている中でいきなりぶかぶかの服を着ていたら、どうしたのか問いたくなる気持ちももちろん分かるのだが…アルムは苦笑して、セレイスが考えついた言い訳を引用させて頂いた。
アルム「うん、港の裏ぐらいかな?町のはずれで歩きながら考え事してたらさ、そのまま海に落っこちちゃって…」
レイシア「もう…本当におっちょこちょいなんだから。それで、その服は?」
アルム「これは、帰って来たら廊下でセレイス先生と会って、どうしたのって言われて…」
事情を説明したら、セレイスは自分の服を貸してくれた。アルムはきっちりそこまで説明した。レイシアは、ふう、と息をついて、「気をつけなさいよ?」と言った。まるで姉のようである。
部屋の奥では、セリスが珍しく本を読みふけっていた。バレないように本のタイトルを覗き込むと、小洒落た字体で『勇者キース=クランドの全て』と書いてある。アルムは町で、この本を見たことがあった。
アルム「あっ、セリスその本買ったんだ」
セリス「ん?おお、めちゃくちゃ面白いぜ。キースさんって、意外と軽い性格なんだぜ。まあ、本が本当ならの話だけどな」
この本は、キースの単独インタビューに成功した記者が執筆したものだった。アルムももちろん、少なからず興味がある。「それ、読み終わったら貸してくれない?」と聞くと、「ああ、いいぜ」と返事が返ってくる。その間も、セリスの視線は本に吸い込まれていた。
◇◇◇
翌朝、1人早く目が覚めたアルムはいつもの服装に着替えた。やはり、服はぴったりのサイズが一番だ。そしてその間に珍しく、レイシアよりも先にルーナが目を覚ました。
アルム「…近いうち、大雪でも降ったりしないかな」
ルーナ「ん…?アルム、今夏だよ…?」
言葉の真の意味を理解していないルーナに、アルムは吹き出した。まだ、いつもの起床時間まで1時間以上ある。ここで、ルーナがぽん、と手をたたいた。
ルーナ「そうだ、アルムが良かったら、今から呪文の練習しよっか?」
アルム「本当?ありがとう、お願いするよ!」
ルーナ「うん、じゃあ行こ!」
2人は、涼しい早朝の空気で満たされた庭へと歩いて行った。