Chapter 9-17
が、しかし―――。
レイズ「来るなぁ!!」
あまりの大声に、思わず3人は足を止める。先頭のセイファーと、レイズの距離は10メートルといったところだ。
レイズ「お前たちに負けて…僕にはもう何も残ってない。何も…」
そう叫ぶレイズの目は、明らかにおかしかった。いっぱいに見開かれたその目は、何かに怯えるように細かく動いている。
セイファー「レイズ…何を!」
レイズ「来るなって言ってるだろ!!」
セイファーはレイズに近づこうとするが、レイズの大声がそれを許さない。
レイズ「スライムなら…この塔のどっかにいるさ…勝手に探して連れて帰れよ。でも、セイファー…お前に連れて行かれるのだけは、ごめんだ…!」
…それは一瞬の出来事だった。3人がわずかに注意を逸らした隙に、レイズは遥か下の川に、真っ逆さまに飛び降りた。急降下する彼の背にある翼は、ぴくりとも動かない。
セイファー「なっ…!おい、レイズ!レイズーーー!!!」
橋から身を乗り出して、大声で叫ぶセイファー。この高さから落ちれば、いくら川であってもおそらくひとたまりもない。彼に迷いはない。すぐさま後を追うようにセイファーは飛び降りた。彼の翼はしっかり動く。セイファーは全速力で、落下するレイズを追いかけた。
アルム「わわ、大変だ…!」
エド「あの2人、生きてんのか…?」
身を乗り出して下を見たまま、2人は呟く。セイファーたちのことは気にかかるが、今はスラリンを見つけるのが先決、そう思った時。
???「ピッ、ピッ、ピキー!!」
はっとして、2人は前方に目を向ける。1つの籠が、ガタガタと動いている。
エド「…スラリン!!」
それは、紛れもなくスラリンだった。中で動く青い物体。エドの声を聞いた瞬間の反応。それらが動かぬ証拠だった。
◇◇◇
アルム「あれ…どこにもいない…」
エド「2人ともどこ行っちゃったんだ?」
スラリンを救出した後、アルムたちはセイファーたちが落ちたと思われる川の下流に来ていた。流れが緩やかなので、川に落ちていればここに来るまでに追いついている。しかし、2人の姿は全く見当たらなかった。
エド「どうする…?」
アルム「…しかたないよ、ぼくたち2人じゃこんなに広いところは探せない…」
二人は落胆して、力無くキメラの翼を放り投げた。その後、何分経ってもセイファーたちが流れてくることはなかった。
〜続く〜