Chapter 5-9
レイシアは、1人で森に行ったんだ…。
アルムの頭の中を巡る、認めたくない事実。今すぐにでも彼女を追って森に行けば、今度は自分が心配される。セリスとルーナも連れて行けば、またルーナに負担をかけることになるかもしれない。それでは、レイシアが1人で森に向かった意味がない。レイシアはおそらく、ルーナに負担をかけたくないから1人で森に向かったのだ。
だが、レイシアは巨大モンスターの消滅をどうやって知ったのか?記憶を手繰り寄せると、その答えは朝食の席で見つかった。今朝の朝食で、アーロンたちの話し声を4人は偶然聞いていたのだ。
アーロン『北西の空が穏やかになった。もう心配はないようだが…一体誰が…』
ゼクトル『さあな…まあでも、良いことじゃねえか?元に戻ったんだからよ…』
彼女なら、この会話から森の様子の変化を見破るのも容易く思われた。アルムは自分に言い聞かせるように、深呼吸をして呟いた。
アルム「でも…レイシアなら、きっと無事に帰ってくるよね…」
そう強く心に念じ、ざわめく木々や草の声をかき消す。が、とうとうそこに立っているのに耐え切れなくなり、アルムは部屋に走っていった。
◇◇◇
セリス「何だって…レイシアが…?」
この話を聞いたセリスは、部屋の窓から外を眺めた。「勝手なことしやがって…」と呟きながら。
一方のルーナは、アルムの話を聞いてからずっと黙りこくって下を向いていた。やがて言葉を発したかと思うと、鳥がつぶやくような、聞こえるか聞こえないかの声で自分を責めていた。
ルーナ「…あたしに…迷惑かけたくないから…レイシアは1人で行ったんだ…」
重苦しい空気が、部屋を支配していた。何分経っただろうか、ふと時計に目をやると訓練5分前になっていた。
アルム「…行かなきゃ…」
ルーナ「もし…レイシアのこと聞かれたらどうする…?」
セリス「知らぬ存ぜぬで通そう。話しちまったら、余計話がややこしくなるからな」
アルム「今は…レイシアの無事を祈るしかないよ…」
3人にいつもの元気はなかった。疲れ切ったような足取りで、訓練に向かった。