ふわりふわりと


冷え切っていたこの手が
体温を取り戻すまで、あと、少し。

-わたしと貴方の二ヶ月間。-


「さて、と。じゃ、とりあえず話聞こか。」
あれから、わたしは2人に連れられて
彼の家に着くと、お風呂にご飯に
濡れてしまった服の洗濯と
何から何までお世話になってしまった。
彼の部屋にはあまり物がなく、
テレビの近くに積まれたゲームの数々や
パソコンの周辺に置かれた機械なんかが
やたらと自己主張しているのが可笑しい。

「おーい、聞いてるー?」

ヒラヒラと眼前で手を振られ、はっとする。
その人は優しくふんわりと微笑みながら、
「そんな珍しいもんないでしょ。」と言うが、
一見すると生活感の無い部屋の
片隅に堂々と置かれている
多くのゲームや機械は、わたしには
不釣り合いで珍しく思えた。

「すみません。それで・・・何から
話せばいいでしょうか。」

自分に関することを聞かれても
何一つとして答えられない。
そんなわたしが彼らに話せることなど
目が覚めてからの数時間のことだけ。
何をどう説明すればいいのだろう。
「とりあえず、名前じゃない?」
先程からキッチンで何やら
ごそごそとしていた彼が
缶ビールと炭酸飲料を右手に、
反対の手にはマグカップを持って
こちらへ戻ってきた。

「はい、これ。」

「あ、ありがとうございます。」

差し出された炭酸飲料をその人が受け取る。
わたしがこの少しの間に分かったのは、
きっと、この2人はそれなりに
長い付き合いなのだということ。
わたしは、彼らが近すぎず
けれど、遠すぎずの丁度いい距離を
自然と保っていることを羨ましく思った。

「で、君はこっち。」

私の前に丁寧に置かれた
薄い青のマグカップからは
ホットココアの甘い香りがした。

「え、あ・・・」

「ん?もしかして、ココア
飲めなかったりする?」

自分のために持ってきたのであろう
缶ビールのプルタブに手をかけながら、
彼がこちらへ視線を流す。
その薄く青色がかったマグカップに
注がれている甘い香りは、
わたしの不安を拭うようにしながら、
白い靄を吐き出していた。

「い、いえ!ありがとうございます。」

「どういたしまして。」

先程のその人と同じように
彼もまた、ふんわりと微笑んだ。

一口、差し出されたココアを含めば、
それもまたふんわりと甘く
身体の中を通っていくのが分かる。
それは、ついさっきまでの寒さなんて
まるで嘘だったかのように
体中が暖かく綻んでいくようだった。

「・・・あの、わたし、


記憶がないんです。」

零れるように呟いたわたしの手は、
温まった身体とは対照的に
緊張で冷たくなっていた。

降り続く雨は、遠慮がちに窓を叩いている。


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