満月の夜


「やめといた方が良いんじゃない・・・?」

「馬鹿、今更逃げるのかよ・・・?」

「そういう訳じゃな「んじゃ、行くぞ!!」

「ちょ・・・!?」


ある満月の夜、2人の少年が
夜道を駆け抜けて
城の中へと入っていった。
その城の図書室には
魔法の書があるという。

その魔法の書には、題名が無い。
分厚いその本はたった1ページに
数行の文章が記されているのみで、
終わりも無ければ続きも無い。


「おかしいだろ?
続きが無いのに終わりも無い。
そんな話がある訳ないじゃないか。」
赤い絨毯の敷かれた廊下の上を
リズムよく踏む音に乗って、声が響いた。
少年の目は透き通るような
灰色をしていて、
それとは対照的に暗い赤茶色の髪が
月光に照らされ輝いている。
首元のチョーカーに
大きく光る青い宝石は
その存在を主張するかのように
ゆらゆらと揺れ、合わせて
裾の長いコートがひらひらと踊った。

「終わらない、続かない・・・
それって矛盾してるんじゃない?」
隣の少年が少し声を潜めながら
そう言うと共に深い藍色の
大きな瞳が怪訝そうに顰められる。
それを緩和させるかのように
深緑の髪は風にサラサラと靡いた。
灰色の帽子を目深く被り、
白のシャツの襟元には
紺色の紐が蝶々結びで緩く結ばれている。

「ん?・・・まぁ、そうだな。それより、
どうだ、興味は湧いたかい?」

「ワザとらしいな・・・。特にこれと言って
惹かれる要素はないじゃないか。
どうして突然、そんな本を
読もうと思ったのさ。」

「いや、それがさ・・・」
灰色の目の少年はさらに声を潜めた。

どうやら、その魔法の書は
「満月の夜」にだけ姿を現すらしい。
一体どういう仕組みなのだろうか、
それは実在するのかさえ謎なのである。

「・・・・・まったく、面倒な本だね。
フィア一人で探せば。」

藍色の目の少年は
やれやれというジェスチャーの後に
呆れた視線をフィアに向けた。

「ナズキはなんでもそれだ。
その面倒ごとを嫌う性格、
直した方がいいぜ。」

「好奇心だけで行動するフィアよりも
幾分かマシだと思うよ、僕の方がね。」

そんな少しの言い合いの最中、
ナズキがふいに立ち止まり
その身体ごと振り返った。
それとほぼ同時だっただろうか、
静かに、しかしハッキリとした存在感を
持った声が後方から掛けられる。

「アナタたち、何をしているの。」

まるで、イタズラがバレた時のように
だんだんと鼓動が加速していく。
瞬間的にフィアは走り出そうとしたが、
まるで接着剤で床に
貼りつけられたかのように
ナズキは微動だにしなかった。

「何してんだ、ナズキ!!走るぞ!!」

そう言いながら、
ナズキの腕を取ろうとして
フィアは思わず唖然とした。
その後方を振りかえった時、
そこには誰も居なかったのだ。


満月の日には気をつけたほうが良い。
月の力に引き寄せられて、人の血が騒ぎ、
事故や犯罪がよく起こるんだって。
綺麗な物にも興味を持たないほうが良い。
魅入られて、魂をも抜かれてしまうから。


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