旅立ちの音色


「すっげー・・・」

嫌になるくらいに真っ青な空に
よく映える白い城。
そこに刻まれている真っ赤な紋章は
綺麗な薔薇を描いている。

「ホント・・・すごい綺麗だね。」

ふわふわと吹くそよ風に乗って、
チヒロの黒髪がなびく。
本当に村を出てしまった。
自分たちには、もう
帰る場所も行く場所もない。

「・・・レイ、どうしたの?」

「あー・・・いや、これから
どうしよっかなぁってさ。」

不思議なことに、
内心はスッキリとしていて、
これからの事なんて全く気にならない。
ただ、漠然と靄がかかっている気は
なんとなくだが、していた。

自分の事ではなく、
チヒロのこれからに。

「これからのこと・・・僕、
何も考えてなかった。」

「うん、俺も何にも考えてなかった。」

チヒロは城の方を見たまま、
何か色々と考えているようだった。
それを横目に見つつ、
レイは何も言うことが出来なかった。


何分、何十分、もしかすると
何時間も経ったかもしれない。
二人は無言で、その場に立っていた。
太陽と月が入れ替わり出したが、
彼らにはどうする術もない。
宿に泊まろうかとも思ったが、
持ちだしてきた少ないお金は
ここまでの長い道のりの間で
とっくに底をついてしまっていた。

「・・・お金、もう少し
持ってくればよかったね。」

ずっと城の方を
向いたままだったチヒロが、
レイに向き直り、そう言った。
その言葉に頷いてレイは
その場へ座り込んだ。

「なんとでもなると思ってたけど、
実際、なんともならないよな。」

「現実って甘くないよね。
でも、村に居たら、
一生分からないことだったかも。」

微笑むチヒロにつられて、
レイも自然と笑顔になった。
現実の厳しさも少年たちにとっては
なんてことはないのかもしれない。

「・・・さて、どうしようか。」

「うん、どうしよう?」

きっと二人とも
もう村へ戻る事は考えてなかった。
不思議と戻りたい気はしなかった。
月が夜道を照らし始め、
少年たちはどうする事もなく
ただそこで待っていた。

一定に動く秒針が
ただ朝を指し示すのを。


「こんな時間に子供が何してんの?」


複雑に絡まる意図は
歯車が回り出したことによって
更に深く絡まり、解けていく。
必然を受け入れるのなら
その先に光は生まれだす。


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