朝の香り


「あ、おはよう。」

「あぁ、おはよう。いつ起きたんだ?」

キッチンを覗くと、ナズキが
朝食の準備をしている最中だった。

「ついさっきだよ。・・・あれから、
彼女はどうしたの?」

「いや、目が覚めると
すぐに出て行ったよ。」

「そっか・・・まぁ、何もなかったなら
気にすることもないか。」

朝食の準備をしながら、ナズキが呟く。
フィアは、少女との会話の内容を
ナズキに話さないでおくことにした。
大した内容ではないし、彼に
伝えるほどのことでもないと思ったのだ。

「ねぇ、ちょっと・・・
ボーっとしてるのなら、
トースト焼くか食器の準備してくれない?」

「あぁ、悪い。すぐ準備するよ。」

こうして、何事もなかったかのように
2人は朝食の準備を続けた。


「それにしても、あの子は
本当に何者だったんだろうね。」

トーストを齧りながら、
ナズキが口を開く。
彼女が何者だったのかなんて
今は誰にも分からない。
少なくともフィアが
彼女について分かることは、
昨晩のことだけだった。

「さぁ・・・でも、きっと何か
知ってるんだろうな。」

フィアは紅茶を啜りながら、
少女の言葉を思い返していた。

(何も知らなまま、黙ってその本を
返していればよかったと
必ず、君はそう後悔するぞ。)

(後悔したくなければ、
早くその本を返しておけよ。
それから、余計な詮索はしない方がいい。
私だって、君たちを巻き込むような
真似はしたくないからな。)

(相変わらず、この街から
見る月は綺麗だな。)

「そういえば・・・あの子、
前にもこの街に
来たことがあるみたいだった。」

この街から見る月が綺麗だと
あの少女は出ていく際に呟いていた。
相変わらずとはどういうことだろうか、
もしかすると、彼女は以前にもこの街を
訪れたことがあるのではないだろうか。


「相変わらず、この街から見る月は
綺麗だなって言ってたよ。
多分、何度かここを
訪れてるんだろうな。」

「そうなんだ・・・
この近くに住んでるのかな。
まぁ、もう会うこともないだろうけど。
黒い服なんて着てたらすごく目立つし、
僕らが夜に出歩くことも少なくなるし。」

「まぁ、最近は物騒なことも多いからな。
しかし、また、どうして今頃になって
モンスターたちが暴れ出したのか・・・。」

たしかに、あの黒装束で
この街は歩けないだろう。
昔から、この街では
黒は罪人の色と決められている。
それに、ここ最近、
隣の街で怪物が暴れただの
町はずれの森で怪物に
襲われたやつがいるだの
そんな話で街中が持ちきりなのだ。
近々、夜間外出禁止令が
出されるという噂もある。
そうなれば、昨夜のように
外を出歩くこともなくなるだろう。

「僕はどうでもいいけど。でも、
面倒なことにならないうちに
処理してほしいね。」

ナズキは気だるげにそう言ってから、
ごちそうさまと呟いて席をたった。


ただ、平凡だった日常が
少しのズレで歪み始める。
いつしか、その歪みは
大きな波となって押し寄せる。


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