空蝉


 捕まえたと思ったのに、隙をついて、君はするりと逃げてしまった。

 草むらで追いかけあったあの日が懐かしい。
 愛しい君はもう、僕の元にはいない。

 君がいい、君しかいない、とお願いしても駄目だった。

 私とあなたは釣り合わない、結ばれるべきではないの、と君は言った。

 君と僕の間に越え難い隔たりを作ってしまった。
 君はどうして気付いてしまったの?
 自分の立ち位置、自分の居場所に。
 気づきさえしなければ、ずっと僕たちは一緒でいられたのに。
 君との間の隔たりはもう埋められない。
 埋めようと歩み寄ったけれど、君はもっと離れて行ってしまう。
 歩み寄れば、歩み寄るほど。
 手を伸ばせば、手を伸ばすほど。
 離れていく。
 手は空を切る。

 永遠の別れの日、君は仲間たちと共に事務的な挨拶をして、故郷へ旅立ってしまった。
 そんな終わりにしたくなくて、精一杯走って追いかけたのに、君は振り返りもせずにどんどん遠ざかってしまった。
 見えなくなったとき、僕は抜け殻になった。

 君はするりと逃げてしまった。
 僕を抜け殻にして。

 抜け殻の僕は今年、幼馴染と結婚する。
 生身の僕は、君の傍に置いたまま。


空蝉
「蝉の抜け殻」


end

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