一人の朝ごはん


朝、目が覚めると知らない天井だった。

茂庭はもぞもぞ布団の中から部屋を見渡す。カーテンは青だったはずなのに緑だし、窓は西向きだったはずなのに南向きにある。においも違う。一体ここはどこなのか。至ってすぐに答えが出た。

(…ああ、そうか。一人暮らし始めたんだっけ)

ふああ、と一つ欠伸をしてから、ベッドから下りた。寝間着のまま、洗面所に向かい、顔を洗う。昨日は遅くまで荷解きをしていたから、目の下にクマができている。ひどい顔だ。それから歯を磨きながら、寝起きでいつもより激しく跳ねるくせ毛を手櫛で撫でつけた。ぐうう、と腹が情けない声を上げる。

「お腹空いた…」

誰に言うともなしに呟いた。
今日から台所で朝食を準備してくれる母親はいないから、朝の支度を終えると台所に立つ。だが、普段料理なんてしないから凝ったものなんて作れない。これから覚えていかねばなるまい。
朝食はごはん派なのだが、米を炊いている間に飢え死にしてしまいそうだから、トースターに昨日スーパーで買った食パンを二枚突っ込んでダイヤルを回す。
食パン二枚では寂しいので、何か適当に作ろうかと思って冷蔵庫を開ける。パンと一緒に買った玉子とベーコンとごはんですよが入っていた。ごはんですよをごはんにつけたくて少しうずうずするが、玉子とベーコンを取り出した。目玉焼きくらいなら焼ける。一緒にベーコンも焼けば、十分朝の腹を満たしてくれるだろう。
シンク下からフライパンを取り出すとコンロに火をつけて、それを熱した。しばらく温めたところで油をひいて、玉子をパカッと開けた。黄身は潰れなかった。徐々に白身が白くなっていき、端に程よく焦げ目がつく。そこで皿に盛りつける。そのままフライパンでベーコンを焼いた。こちらも程よく焦げ目がついたところで皿に盛りつけた。そこでトースターがチーン、とパンが焼けたことを知らせた。


思った以上に上手くいった朝食を前に茂庭は一人誇らしげに笑っていた。人生初の一人暮らしで初めて朝食を作った記念にと朝食にスマートフォンのカメラを向けた。

茂庭要:一人暮らしして初めての朝食。

伊達工業バレー部のラインにその写真をアップロードする。朝だから返事が来るとは思っていない。第一、朝食の写真をアップロードされたところで茂庭なら反応に困る。だが、誰かに言いたくて仕方なかった。誰かに一人で朝食を作ったことを知って欲しかった。
目玉焼きに塩をかけて、食パンにマーガリンを塗りつける。一人で食べる食事はどこか味気ない。パンを咀嚼してから、グラスに注いだ野菜ジュースを飲む。目玉焼きを箸でついばむ。焦げの味はしないし、良い具合に黄身が半熟で一人ほくそ笑む。でも、何か足りない。一人の食事は心細かった。
そこにピロン、とラインの通知音。スマートフォンを確認すると誰かが茂庭のラインに反応したようだった。

二口堅治:目玉焼き、半熟っスね!ちゃんと焼いてんスか?
青根高伸:大丈夫です。俺も半熟派です。
鎌先靖志:すげー!黄身がつぶれてねえぞ!どうやって焼いてんの?
笹谷武仁:おい、野菜ねーぞ。野菜食えよ。
小原豊:茂庭さんがごはん食べてないのが意外です。

その他にもOBや部員たちが茂庭の朝食に感想を伸べている。それぞれの言葉に茂庭はクスッと笑った。また、さくりと食パンをかじる。マーガリンのよく染みこんだ小麦の味が口いっぱいに広がった。おいしい。みんなの言葉を見るだけで心強い気がした。

茂庭要:ありがとう!みんなのおかげでおいしく完食できた!


end

(140929)
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