タイム・ライダー | ナノ



バシン!と障子戸の格子がいい音を鳴らした。
自室に項垂れ、畳の目をカリカリと爪で引っ掻いた。余りに強く引っ掻くものだから少し目が逆立ってしまったけれども、これは後で梛さんに謝ろう。だって今はそれ処じゃ無い!

ど、どうしようどうしよう!さ、佐助を、あの猿飛佐助を叩いてしまった…。後先考えずあいつの当て擦る言い方にまんまと乗せられてカッとなって気付いたら箒を振り上げていた。
うっわ、私ってバカだ大バカ者だ、あの佐助がやられたままで黙っているはずが無い。しかもあいつに馬鹿って言ってしまった。アホか!笑えない!私がバカだろう!!
どうしようどうしよう。待つのは――


「報復!?」


嫌だぁー!!
今以上に厭味が増える、ネチネチと狡猾な手を使われて陰湿な嫌がらせが増すんだ。信玄様と幸村さん、梛さんが居る前ではへらへらしていても裏ではご飯の中に縫い針仕込んで私に食べさせるんだ、きっとそうだ、何だよ最悪じゃないか。
佐助、針が入ってたよー?何て言っても、あらそう?じゃ次は加薬御飯にするー?って手渡すのがマジな火薬が入った火薬御飯なんだ。なにそれぜんっぜん上手くないし!
しかも私、あいつと仲良くなりたいって言っちゃったし!信玄様の信頼されてる部下だって言うでしょう?それに幸村さんが館を訪ねられると必ずオプションでついて来るあの男と、毎回いがみ合う仲を解消したいと思ってはいたけども。
さっきもこっちが笑顔を見せても佐助はイラついた目で見下すだけで。

どうしたらいいっつーの!
距離を縮める所か逆に広げてどうすんの!触らぬ神に祟り無し…や、あいつは神なんかじゃ無い、この例えで納得したくないー!
誰でも良いです誰かこの大バカな私を助けて!!





「名前殿ぉおおーっ!」


すぱーんと勢い良く障子戸が開かれ、項垂れ倒れていた私はのそりと顔を上げた。居たのは戸を開き両手を広げて固まったままの幸村さんだった。
そういえばさっきすれ違ったよなぁ。と“佐助!魔の手からの回避術”を練っていた私の肩を幸村さんはがっしり掴み、横たわっていた私の体を持ち起こした。


「い、如何なされました!倒られてお体の具合でも優れないので御座るか!?」

「い、いえ。ただ考え事を…」

「考え事?何か気に悩んでおいでで!?なればこの幸村にお話し下され!力及ばぬやも知れませぬが、必ず名前殿のお悩みをこの手を持って拓けさせましょう!」


ぎり、と握られた拳に視線が行く。幸村さんは豪快な悩み解消術を持っているんだ羨ましい、と感心する私の両肩をまだ彼はしっかりと掴んでいた。

あれ、可笑しいな。女の子の話しや色恋の話、小袖の下にチラついた足首を見ただけで破廉恥はれんち騒ぐはずなのに、私の肩をこうやって握るのは破廉恥の類いには入らないのだろうか?
至極真剣な顔を向ける彼の両眼を探ってみれば、一本気の幸村さんもまた私の目を探る。


「か、考えごと、は…」

「はい!」

「そう……」

「うむ!!」

「たいした事じゃ」

「ぬ、」


ないんですよー。とその場凌ぎの笑顔を張り付け、顔の前で手を振れば眉根を寄せていた幸村さんの両目が倍に大きく見開かれた。
良く言えば生一本、言い方を変えれば猪突猛進で突っ走る彼の行動を予想した私は、肩を強張らせて身構える。幸村さんのアクションを今一度掴めていないから仕方が無いと言えばそうなんだろうけど、毎回ドキドキして心臓に悪い。
次はどんな力技で身を振るのかと思いきや、幸村さんは掴んでいた肩を離し、私の両手を包んでその掌を上に向けた。

……あ、しまった――


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