タイム・ライダー | ナノ





まだ日も昇らない霞の中私は馬へ乗せられ揺れていた。
馬に乗るというのも初めてで、しかも自転車でもした事のない横乗り。
欲を言えばガバッと脚を広げてこの人達と同じ格好で跨ぎたかったけど、着物姿で脚を開くとなれば流石の私も恥を知るわ。


あれから目を瞑る事も出来なくて、流しすぎた涙ももう乾いてた。不思議な事に今までの出来事が夢じゃない、と恐ろしいほど素直に受け入れられていた。
別に諦めたってワケじゃなくて頭の中が澄み切っているだけで。でもそのお陰で身に触れる衣類の感触が違うことにも気付けた。
一緒にこの苦境を堪えてきた相棒のパジャマじゃ無く、見知らぬ着物に着替えさせられていたのには驚いたけど、体中についた傷は痛むものの丁寧に処置はされてあったし、昨夜の様な恐怖はあまり感じなかった。


「其方の罪状、某では裁ききれぬ。よってお館様に下知して頂く」


外に連れ出されて言われた言葉がこれ。私にそう告げた人は栗毛の馬で先頭を駆けるあの赤い服の人。
あの時私に手を差し延べてくれた人。縋った私の手を握ってくれた人。助ける、と言ってくれた人。
その人からお前は罪人だとあからさまに告げられた様で、一気に悲しみが込み上げた。
牢屋じゃなくて、広い部屋に綺麗な布団で寝かされて居たからって、私が怪しい者だと云う疑いが晴れた訳じゃなかった。
人様の大切な土地に無断で入ったのは怒られて当たり前だけど。でも罪状とか裁くとか、そこまでいくのだろうか。
ただ黙ったまま私は頷く事しか出来なかった。




それから鞍橋に乗せられ、私は逃げ出さない様に両手を麻縄で結ばれた。
その時、手に縄を巻き付ける人を見て内心焦った。だって私が牢から逃げる時に木の板で頭を殴り倒してしまった兵士だったから。ここに居るということは重傷じゃ無かったみたいでホッとしたけど、私はこの人を負傷させた訳で。
その自分の咎を許して貰おうと口を開きかけた。


多分、いい子に見られたかったんだと思う。
自分から先に罪を認めて謝る事で私は罰するに値しない者だと、誰でもいいから善いように解釈して貰って味方を作りたかったんだと思う。

なんて、ずるい。
でもこの人は、そんな風に考えていた私に向かって優しく言った。


「ごめんな、少し痛いかも知れないが着いたらすぐに解いてやる」


彼は俯いたままで目は合わせてくれなかったけど私には逆にそれが助かった。熱くなる目頭を、ぎゅっと口を結ぶ事で堪えた。


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