その言葉が嬉しい


3月3日で日本人なら大抵の人は雛祭りと思い浮かぶだろう。私だってそうだ。性別女で生まれたからには雛祭りは当然楽しみである。そして今、私は平古場家の雛人形を飾り終えてそれを眺めている所である。何故自分の家じゃなくて平古場家なのかと言うと、単純に私の家に雛人形なんて高い物は無いからだ。親戚の家に女の子が生まれたら雛人形を見に行って買っていたりするのに、だ。私の親はどこか金銭感覚が可笑しい。なので私の家には残念ながらない。だからこそちょっとでも雛祭り気分を味わいたいが為にお隣さんである平古場家の雛人形を飾るのを手伝ってまで見ているのだ。
そして、私の横には平古場家の住民である凛がいる。ただ横にいるだけで私とは真逆を向いている。頬を突付くと鬱陶しいとでも言いたげな表情でこちらを向いた。

「別に何でもないけど…ってかなんでここにいんの?自分の部屋に行ったら?」
「うるさい、別に良いだろ」
「まあね。むしろ私がなんで居るんだって感じ…なのかな」
「今更さー」
「毎年だもんね?」

二人で軽く笑いあう。毎年恒例の出来事でむしろそれが当たり前と化している。そう、凛が私の横に居るのもいつしか当たり前になっていた…私の中では、だが。小さい頃からずっと横にいるのだ、これからもずっと一緒に居れるんじゃないかなと思いながら再び視線を雛人形へと移す。
お内裏様とお雛様、二人並んですまし顔…なんて歌詞がある通り私には誇らしげな表情に見える。なんとなくだけれども羨ましいな、と思う。さっきの話に戻るけれども彼等は人形だけれども一緒に居られるのだ。それもかなり長い年月を。
そう考えている内に凛ママが菱餅や雛あられ等を持ってきた。それを凛が受け取って私はそれを飾っていく。そして私は今更ながらに思い出す。そういえば雛祭りは凛の誕生日でもあるんだな、と。

「りーん」
「ん?ぬーやが?」
「今日雛祭りじゃん」
「で?」
「3日じゃん」
「…で?」
「マジごめん、誕生日おめでとう」

盛大な溜息を吐く凛。思い返せば毎年似た様な反応をしているからだろうか。なかなか言葉を返さない凛に申し訳なく感じてきて土下座しながらスマンと誠心誠意を込めて言えば頭をがしっと掴まれた。頭を上げたくても凛の手が邪魔で上げられない。嫌がらせなのか?それなら苦情の一つでも言ってあげようと口を開きかけた時に「そのままでいろ」と小さく凛の声が聞こえた。

「ちょ、待ってください…この体勢キツいっすよ?平古場さん、力緩めてー」
「やー、少しは静かにできねぇのかよ」
「無理ですってか何で?顔上げるくらいいいじゃん」

いつになったら手をどかしてくれるのだ?と思っていると再び凛ママ。私達に甘酒を持ってきてくれたようだけれどなにやらくすくす笑っている。確かにこんな体勢見たら誰でも笑うだろう。私だって裕次郎が私みたいな格好していれば笑う。永四郎だったとしても…ごめん、想像するのを頭が拒否した。けれど、凛ママはどうやら私の予想とは違う所で笑っていたようだ。

「凛、顔赤いねー?鈴音ちゃんに何言われたのよ」

そうくすくす笑いながら言って「ここに甘酒置いておくわね」と言い残してまた二人きり。凛の手に力が無くなってるのを良い事にガバッと顔をあげれば確かに凛のほっぺが赤い。何で赤いんだろう…そんなに今日は暑いのだろうか?

「凛…なんでほっぺ赤いの?暑い?」
「ちげぇよ…ただ」
「ただ?」

少しの沈黙の後、凛が言った言葉に思わず私は口元を緩めた。

「お前の言葉が嬉しかっただけやっしー」



「つまり照れていたと…」

私は携帯にゆっくり手を伸ばして写メを撮る。ピロリラリーンと間抜けな音が部屋に少し響く。画面には視線が横へと反れてるけど頬が赤くなってる凛でいっぱいだ。遠慮なく保存して待ち受けに設定。そして待ち受けを凛に見せれば苦情の嵐。

「やー…何撮ってんだよ!ってか待ち受けはやめろって!」
「今日一日凛の事考えてたいから…駄目?」
「……なら、鈴音を俺の携帯の待ち受けにしてもいいんさー?」
「いいよ!どんとこーい」
「…はぁ」

凛が私に勝てる日はまだまだ先のお話です。


2011/03/03 凛ちゃんHappy Birthday!!


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