困った声


夕方、一人公園のベンチに座って空を見上げた。オレンジ色に染まっていく空はとても優しい色をしていた。まるで私とは正反対のようだ、と思った。手に持っていた手紙をもう一度見る。ここに来る前にもさんざん見たけれどそれでもどこか信じられなかった。差出人は…鬼道有人だった。
どうやら彼は今からエイリア学園というサッカーで学校を破壊している自称宇宙人達を倒すべく雷門中の人達と行ってしまうらしい。私は佐久間くんや源田くん達と同じように入院しているから無駄に心配させたくなかったようで私の実家に手紙を置いてきていたみたいで…やっと退院できた私は今日この手紙を読んで落胆した。家族に落ち込んだ姿を見せたくなかったからわざわざ散歩と称して公園まで落ち込みに来たのだ。

「何で…手紙なの」

思わずもれた声。文字が丁寧に綴られてる手紙の言葉が全て綺麗事にしか見えない。彼が旅とは違うかもしれないが旅立つ前には病室へと来てくれているのに、だ。そんなよくわからない奴等貴方が行かなくても!と私がどんなに思っても彼はきっと『だからこそ俺達が行かなくてはいけないんだろう』と私に諭す。馬鹿げた奴等がサッカーを使って地球征服するならきっと彼は…いや、彼等は自分達がいくしかないと思うだろう。私だってサッカーが好きだしこのままわけわからない宇宙人達に征服されるなら私も戦おうって思う。けれど…私にそんな力もなくまだ怪我も完治していない…ただのお荷物にしかならないのだ。
でも、それとこの手紙は関係ない。どうして直接言ってくれなかったのだろう。私はそんなに鬼道さんにとって頼りない存在だったのだろうか。頼りない自覚はあるしだってメンタルも頭脳だって弱い。帝国にまだ鬼道さんが居る時は色んな面で頼ってた。それに…私達の想いが通じ合ってからは鬼道さんは前よりも増して優しくなった気がする。優しいというよりも過保護なのかもしれない。それでも一緒に居られたから、あの時はそれで満足だった。

「私は、鬼道さんに……甘えきってたのかな…─」

それとも私だけが一方的に好きだと思ってて、鬼道さんにとって私は妹だったのだろうか。ベンチの上で膝を抱えて座っていると何かが落ちる音が聞こえた。どうやら封筒の中にはさっき読んだ手紙以外にもまだ入っていたようだ。落ちたものが何か確かめる為に体勢を崩して地面に落ちたソレを手に取って見る。ソレ…小さめの紙に書かれたさっきの手紙とは違ってちょっと雑な字で書いてある愛の言葉。


  ───愛している。


キザったらしいったら無い。馬鹿だ、あのゴーグルでマントでドレッドな司令塔は馬鹿だ。こんな言葉で私が許すわけがない…って言えたら良いのに。気付いたら眼から涙は出て嗚咽も漏らす。羽織っていたカーディガンにどんどん水分が含まれていく。けれど私の眼からは絶えず溢れている。こんなの鬼道さんが見たら絶対に私を宥めてくれるだろう。

「なんてズルい人なんですか…鬼道さん」

私だって貴方に言いたかったのに。いつもは照れて好きとしか言えなかったけど、気持ちは一緒だ。せめて旅立つ前に聞き飽きるくらい、私の声が掠れてもういいって言われるくらいに好きと言えばよかった。そしたら、貴方の声でこの言葉を聞けたのかな?

「今、何をしてますか?鬼道さん…私は、泣いてますよー」

夕方から夜へと耽って来て、一番星が輝く空に言う。声が返って来るはずも無いし、あの優しい手で頭を撫でてくれる事もないけれど。ねぇ、鬼道さん…早く帰って来てくれないと……。

「佐久間くんと源田くんに浮気しちゃうからね!」


どこから「それはやめてくれ」と
貴方の困った声が聞こえた気がした──


後日、直接言うのは今は無理だからとりあえずメールで送ってみた。どんな返事が返ってくるのだろうか、とても楽しみである。ただ願うのは画面の向こう側で照れていますようにという事。
後で春奈ちゃんに聞いてみようか?
私は佐久間くんと源田くんがいる病院へと向かった。自分でも気付かぬ内に口角を上げながら。


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