順番、間違い


放課後の部活。今日は海での練習のようだ。
いつも通る帰り道からよく見える海。
そしてそこにたまにいる彼等…比嘉中男子テニス部。
最初に見たときはよくもまああんなにはしゃげる事…って思って、友達に言ったら「あれは遊んでるんじゃなくて部活の練習らしいよ」って笑って言われた。
あれのどこが練習なんだ…。
しかし、良く見てみれば楽しそうな顔は誰も作ってなくて見てる方が疲れそうな位苛酷でしんどそうな顔してた。
それからというものの何となく、帰っている時に海へと視線を向けてしまう癖がついてしまった。

彼等の中で一番目立つのは金髪の平古場君。
髪の毛が太陽に反射してキラキラと輝いてるからついつい目がいってしまう。
学校でたまに見かける時も一番目に入ってくる。
話したことなんか無いし、どんな人かよく知らないけど…。
私と同じクラスである知念君と話してる所を見た感じではすごく明るくて太陽みたいな、それでいて月のような人だなって思った。
明るい笑い声で周りを楽しませるけどそれによって他の人を輝かせてる。
そんな風に私には見えた。

それにしても暑い。今日も暑い。暑すぎる。
元は関東の人間の私だ。クーラー生活が長かったから沖縄という場所は本当に暑い。
鞄からハイビスカス柄のハンドタオルを取り出して汗を拭く。
この夏の時期は必須の持ち物であるタオルやハンカチ。
最近買ったこのハイビスカス柄のタオルは今一番気に入っているのだ。
いつまで手に持っていても邪魔なので鞄にしまおうとした時、強い風が吹き、タオルは風に攫われて海の方へと飛んでいった。

「ま、待って!!」

手を伸ばしてみるも結構飛んでいっているせいか全く手が届かない。
だけど風の威力が収まってきたのかどんどん地面へと落ちていく。
再び風に攫われる前に海岸へと降りてタオルを探せば運悪く海の上に落ちていた。
どうせ洗うのだから良いけれども、何となく悔しい。
タオルが濡れるくらいならまだしも靴が濡れるのは困る。
その場に鞄と靴と靴下を置いて海に向かって歩く。
砂浜は日に焼けて熱くなっている。
ちょっと急ぎ足で波が来る所まで歩いていくと冷たい水の感触。
タオルまで後ちょっとの距離。
そのままゆっくりと歩きタオルに手を伸ばそうとした瞬間、ぐいっと誰かに肩を引かれた。

「やー、何してるんばぁよ!危ないやっし!!」
「へ?」
「辛い事があったんならわんが聞くさぁ」
「え?…な、何の事?」
「…やー、ここで死のうとしてたんじゃ……」
「違うよ?このタオル取ろうと思っただけ…ですが」

波によって私の足元まで来たタオルを手に取って彼に見せる。
彼はポカンとした顔をして固まっていた。
私はタオルをギュッと絞りながら目の前にいる彼の事をじっくり見た。
日に焼けた健康そうな肌色。キラキラ太陽の光りを浴びている金髪。
嗚呼、彼は私が何故か目で追ってしまう平古場君ではありませんか…。
風にしては粋な計らいをしてくれる…とは言ってもなんかややこしい勘違いをされてしまったが。

「やー、しんけんに違ぇんだな?」
「うん…というか、どうしてそう思ったのか気になるんだけど…ま、いいや」

平古場君は見知らぬ人にも優しいって事がわかっただけでも大収穫!
…平古場君の事がわかったからって何が特するのかとかよくわからないけど。
さて、もう帰ろうかなって思ったらまだ肩にある彼の手。

「平古場君、私帰るから手を退かしてくれますかね?」
「あ、わっさん…って、わんの名前…」
「平古場君有名だからね…ま、テニス部全員有名だけど」
「ああ、そうか…」

平古場君が納得したのを見ると自覚症状はあるらしい。
知念君とは大違いだな…。
肩も自由になった事だし、帰ろうと思って鞄がある所まで歩いて行く。
軽く足についた砂をはらって靴下と靴を履く。
鞄を開いてもう一つある大きめのタオルに濡れたタオルを包んで鞄へと仕舞い込む。
漸く帰れるな、と思いながら大きく伸びをすればちょっと騒がしい声が聞こえてくる。
きっとテニス部の人たちだろう。
邪魔する前に帰ろうと足を動かせば次は腕を掴まれて先に進めなかった。

「今度は何でしょうか?」
「やー、知念と同じクラスの葉山さん?」
「…うん」

軽く頷けば平古場君はやっぱりと小さく言った後ブツブツと何か考えているようだ。
その間にもだんだんと平古場君を呼ぶ声が近付いてくる。
これ以上ここにいるのは本当に邪魔になるだろう。
帰ることを告げても掴まれた腕が自由になる事はなくて。
他のテニス部の人たちが目測できるまで近くに来た時にやっと平古場君は反応を返してくれた。

「…わん、葉山さんの事す…」
「え?」
「葉山さんの事、でーじしち…」
「凛、ぬーしてるんばぁ…って抜け駆けはダメってあびたやんにー!!」
「後一歩だったんに…」
「……?」

わけがわからないまま茫然と二人を見ていれば一瞬、頬に何かの感触。
そして甲斐君の絶叫と平古場君の良い笑顔が見えた。

「わん、葉山さんの事、でーじでーじしちゅんさぁ」

キラキラ輝く髪の毛と同じくらいに輝いている笑顔につい見惚れてしまった。
でも、私の頭の中は別の事を考えてて…。

順番、間違ってませんか?

(平古場君ってずるい人だ…)
(こんなにも急激に気になってくるように仕掛けてる)
(嗚呼、今私の顔…真っ赤だろうな)


凛ちゃん、誕生日おめでとう!10/03/03


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