対等心理 | ナノ



今夜は新月、街の明かりが消えて街灯だけが窓を照らしている。
深夜0時にぼくは自分の家にいない。此処は御剣の家で、経緯は別になく流れで泊まることになった。いつものことだ。
御剣はぼくを見るなり眉間の皺を無くし、いれたてのレモンティーを差し出す。御剣は普段はストレートティー、ぼくは甘あいレモンティーと決まっているからだ。

「…なあ、イトノコ刑事はどうなったんだ?今日の裁判でお前にメッタ斬りにされてたけど」
「給料査定をほぼ0に近くしたな。あと彼の刑事道具を没収した」

こいつは相変わらずイトノコ刑事に厳しい。今頃査定をみて涙目になっていることだろう。この前ためしに見せてもらったのだが…そうめんすら買えない程だった。
御剣は薄汚れたカーキの上着の結びを解いた。王斗楼の事件で最後の証拠品を包んでいたイトノコ刑事のコートから、がちゃりと金属の擦れる音が聞こえる。

「まず警察手帳に…拳銃、手錠」
「へー…ってお前キツすぎないか?イトノコ刑事、警察の仕事しかないんじゃ」
「まあ一時的に預かるだけだからな」

預かるって。
あきれてその一言も言えずぼくは首を掻く。一方御剣はストレートティーを口に含むと、まだスーツのままのぼくを見た。話は一段落したとばかりに、人を見下すように首を傾けて。
いつも通りのその仕草はぼくにしかわからない意味を秘めている。馬鹿馬鹿しい優越感に喉が鳴ったのが分かって、少し恥ずかしい。

「御剣…もう?」

控えめな問い掛けに返事はない。
その仕草は欲情の証なのだと、ぼくだけが知っている。そう、つまり。御剣の手の中、イトノコ刑事のものであった手錠がじゃらり、ゆるやかに握りしめられて。

「…シャワー浴びてくるね。貸してくれるだろ?」
「無論だ」

まあこういう感じに縺れ込まれるのは家に来た時から分かっていたし、その為の準備はしてきてあって、…ぼくは当然男だし嫌いかと言われれば嘘になる。
ティーカップを置いて立ち上がったその時、御剣の目線が既にぼくではなくイトノコ刑事の手錠に向けられていた事が何を意味しているのかは考えたくも無くて、これからの深夜の出来事に向けてシャワールームへと急いだ。