(attention!!)
・某戦う司書パロです
・パロと銘打っている割に話はまるっきり違います
・ポケモンといっしょに戦うものなんだと思ってください






 この神立図書館の中庭は、広い。とにかく広い。庭園と呼ぶにあって然るべき美しい細工のアーチや噴水こそないが、青々と生い茂った芝生がずっと広がっている光景は、誰の心にも美しく映った。いつもなら一般利用客のカップルや、司書たちの昼食場所としてにぎわっている昼下がり。抉られ、崩され、以前の凛とした姿をようやくのところで保っている城壁を見上げて、少女は緩く息をついた。つい七日前に幕を下ろした戦争の爪跡がくっきりと残る城壁に、明るい芝生は酷く似合わないようにも、この上なく似つかわしいようにも見える。まるで廃墟だ、とトウコは思った。祝杯の準備に皆が狩り出されているとは言え、中庭がこれほどまでに静かなことは、彼女の知る限りで過去にはなかっただろう。人の姿の見えないひっそりとした城に、ちいさな王さまの姿が重なった。

(…あの子も、こんなお城にいたのかな)

 遠い昔に生きた少年のことだから、その真偽は分からない。辿ろうにも辿れない。どうしてか泣きたくなった。彼は幸せだったのだろうか。彼の願いは叶ったのだろうか。彼はこんな世界が来ることを、望んでいたのだろうか。

(叶ったよ、きっと。きみの願ったきれいな世界に、なれたよ)

 トウコは届くはずのない言葉を並べた。みんなが「ともだち」になれる世界に、みんなが幸せになれる世界に、きっとなってる。ぽすん、と背中が芝生に受け止められた。視界に広がった空は、フウロの予報が告げた通り、雲ひとつない青を湛えている。眠いなあ、と思ってそっと目を閉じてみれば、草を踏む音がひとつ。ベルのミジュマルかな、チェレンのポカブかもしれない。ううん、もしかしたら野良のチョロネコかも。どれにせよ自分の安眠を敢えて妨害はしないと思いこんだトウコは、油断していた。ゆっくり歩いていた足音が急に走り出して、ようやく迫ってくるそれに気付くことが出来ても、もう遅い。

「こきゅうううん!」
「ぅぐふッ!?」

 渾身でダイブをかました黒い毛並みの子狐に、トウコは為す術もなく悲鳴をあげた。しかし子狐のほうは主人を見つけたのが余程嬉しかったのか、甘えるようにトウコの髪にじゃれついている。先の戦争で負った傷が少し痛んだ気がしたが、少しでも表情に出せばこの賢い子狐には気取られてしまう。よしよし、赤い毛の混じった毛並みを撫でて、トウコは微笑んだ。

「…トウコちゃん?」

 上体を起こした彼女の上から、のんびりとした柔らかい声が降ってくる。

「大丈夫かい?」

 困ったように笑った彼に、彼女は少しだけ安心した。

「アーティさんこそ、平気ですか?毒とか…怪我とか、」
「あぁ、うん。全然平気だよ」

 へらりと笑ったアーティはトウコの手を取り、ひょいと軽く立たせてやる。じゃれていたゾロアは、今度はアーティといっしょに来たらしいペンドラーの頭の上を陣取っていた。彼は言いづらそうに「あー…」と言葉を練りに練ってから、トウコに向き直る。

「まだ傷が痛むようだったら、僕に言ってね?」
「へ?」
「その…ケガさせちゃったの、僕なんだし」

 白いガーゼと包帯が覗く頭を掻いて、恐らく彼のほうだって重症だろう、アーティはまた困ったように笑った。

「アーティさんらしくないですね」

 トウコの言う通り、彼がこんなふうに言うのは今までになかった。地下で初めて会ったときの彼は、こんな優しい人には見えなかった。

「そうかな?」
「そうです」

 アーティは暫しトウコを見つめ、そうだねえと呟く。

「きっとね、変わったんだよ」

 微笑んで、すり寄ってきた子狐を抱き上げた。ゾロアは少しも拒まない。変わったのだと甘ったるいはちみつ色の瞳を優しく細められて言われ、トウコは迷うことなく頷いた。アーティは綺麗な笑顔を浮かべて、「さ、行こうか」と彼女の背を押す。「え、え?」トウコが挙げた戸惑いの声に、彼はきょとんとしてみせた。

「何言ってるのさ。今日はお祝いだよ?みんなで祝わなきゃだめなんだよ?」
「えっ、でもお祝いは夕方からって…」
「ちがうちがう。君を待ってる人がいる、迎えに行ってあげなきゃ」

 受付まで言っておいで、とアーティに諭され、トウコは頭に疑問符をいくつも並べる。誰だ、受付で私を待ってるひとなんて、いないのに。そもそもそんなところで待っているのは外部の人間、とそこまで考えて、一瞬、彼女の頭の回転がぴたりと静止した。「トウヤ、」唇が勝手に動く。トウコの頭が再び回りだしたのは、それより少し遅れてからだった。考えるより先に、彼女の足は動きだす。帽子が飛ぶのも気にせず、一般用ホールに向かって。
 鮮やかな茶色が屋根を潜って見えなくなるまで、アーティはひとり、ちいさな見習いの背中を見送った。



きている、それだけで

(駆け出した瞬間に見えた青空はどこまでも青くて、わたしの胸にあざやかに刻み込まれたのです)


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トウヤくんとトウコちゃんが世界を救ったよめでたしめでたし!なパロを考えていました


title:noir

(12.01.16)

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