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■夏×ファーストキス(及川編)

「い、いいいいいいの?!本当に?!」

「しつこい。」

「だって!」

「じゃあ、やめ……。」

「待って!やめないで!ダメ!絶対ダメ、やめないで!!」

高校生活最後の夏休み。
それをあと数日に控えた教室で、俺はゆいちゃんに「告白」をした。

もっともこれはお決まりの儀式のようなものだ───と思っていた。
2年生で同じクラスになって一目惚れ。
冷たくあしらわれるほどに熱くなって、何度も何度も好きだと告げた。

その度に「ハイハイ」と受け流されるのはもう定番で、だからその日も同じだと思っていた。


『ゆいちゃんが好きです!付き合ってください!』
90度に身体を折り曲げて、見えない相手に手を差しだした。
お決まりの台詞、お決まりのパターン。

ほんのちょっとだけ期待しながら、だけど『ハイハイ』って言葉を、俺は当然のように待ち受けていた。

それが、

『いいよ。』

『へっ?!うぇぇ?!は、へぇぇぇ???!』
って、信じられないでしょ!簡単には!
ていうか、ここに来て新しいパターン!この後、「なわけないじゃん!」とかそういう感じ?

って思ったのに、

『だから、いいってば。』

『い、いいいいいいの?!本当に?!』

『しつこい。』

『だって!』
と、いうワケですよ!皆さん!
ねぇ、みんな!聞いてる?!ゆいちゃんが!俺と!付き合っても!いいんだって!
ねぇねぇ、聞いてる?!聞いてよ!
岩ちゃ───


「そこで岩泉に報告とか、意味わかんない。」
心の声はダダ漏れ。
机に頬杖をついて俺を見上げて、ゆいちゃんは呆れ顔を作るけど、

「ご、ごめんね!」
恐る恐る伸ばした手は振り払われることなくゆいちゃんの手に辿り着いた。

「さ、触ってる!」

「うん。」

「ゆいちゃんに触っても怒られない!」

「だから、しつこいってば。」
すごい、奇跡みたいだ。
ゆいちゃんと手を繋いで、これから俺たち彼氏と彼女。
なんて、世界一幸せ!

だけど、欲張りはいけない。

「キ、キスしていい?!」

「はぁ?」

「だって!」
ずっとずっと、してみたかった。
ゆいちゃんの手を握って、髪の毛に触れたり、キスしたり、抱き締めたりってしてみたかった。

「ダメ、そんなのいいわけないじゃん。」

「ええ!」

「付き合ったらすぐキスとか。」

「待って!ごめん、嫌いにならないで!」
フイ、と横を向いたゆいちゃんの机の前で膝を折った。
ごめんなさい、調子乗りました!
キスとかさ、まだ早いよね!
やっと付き合えたんだもん、ちょっとずつだって俺は嬉しいよ!
そう言ったら、ゆいちゃんに笑われた。


「バカ徹。」
キスは許してもらえなかったけど、この笑顔が俺のものなんだって思ったらやっぱり最高に嬉しい。



スキップして部活に行って、珍しく早めに自主練を切りあげてスマホチェック。
『図書館にいるね』の文字にますます心が跳ねた。

「ゆいちゃん!」

「ここ、図書館。」

「あ、ヤバ。」
机に向かっていたゆいちゃんは、だけどそれ以上は怒らずに椅子から立ちあがった。

「帰ろ。」

「うん!」

「てか、外あっつい。」
クーラーの効いた図書館から暑い廊下に出ると、むわりとした熱気が身体を包んだ。

「アイス、奢ってあげる。」

「え、太っ腹。どしたの?」
コンビニ寄ろうよと繋いだ手を引き寄せて、

「彼氏ですから!」
ばっちり決めようと思った顔は、思いっきりふやけた笑顔になった。

「あはは、ウケる。」

「ちょ、そこ!ウケるとこじゃないからね!」
軽くあしらう口調とは裏腹に、繋いだままの手の平。
やっぱりちゃんと付き合ってるんだ!なんて妙に感心、それから感動。


「パピコのぶどう味がいい。」

「え、そんなのあるんだ。」

「でも白くまくんもいいなー。」
窓に広がる夕焼け、喧噪の去った靴箱と玄関、部活帰りで意外に賑やかな校門。
手を繋いで歩く道は、どれも新鮮に見える。

歩いて学校前のコンビニに寄って、バス停の前にあるベンチに腰掛けた。
次のバスまでまだ時間があるせいか、俺たちの他にそこには誰もいなかった。

「おいしー。」
棒付きのフルーツアイスの袋を破って、ゆいちゃんが口を付ける。
ヤバイ、アイスって結構エロい。
口から飛び出さないようにしっかり封じ込めた心の声。

「暑いもんねぇ。」
横目でそれを見ながら、ゆいちゃんのアイスと一緒に買ったスポーツドリンクを1口飲んだ。


「ねぇ、」
まとわりつく夏の空気もちっとも不快じゃないのは、最高に上がってる気分のせい。
はっきり言って口元は緩みっぱなしだ。

だけど、やっぱり1つだけ気になることがある。

「あの、さ……どうして付き合ってもいいって、言ってくれたの?」
ちょっぴり緊張、だってやっぱり怖い。
今更冗談だって言われたら、俺きっと死んじゃう!


「う──ん。」
溶けたアイスを舐め取る舌先にドキリ。
だけど緊張して、なんだか頭がヘンになりそう。

「知りたい?」

「知りたい!」
そう言って身を乗り出したら、

「わッ、んん!」
口唇に押し当てられた冷たい塊。
甘いアイスが体温に解けだして、慌てて口唇を動かしてそれを拭った。

その───俺の、口唇に、


ちゅ、
と触れた柔らかな、体温。

「うっそ!」
拒否されたとばかり思ったお強請りまで叶ってしまうなんて、本当に奇跡としか言いようがない。


「私もね、ずっと好きだったから。」

夕焼けに照らされた微笑みに、なんだか泣きそうになる。

「いや、ちょっと……泣かないでよ!」

「だって!」

「もー、何回“だって”とか言うの。」

だってさ、だってだってだよ!
それって本当?
ゆいちゃんも俺のこと好きだったって、本当?!
だとしたら、やっぱり俺は世界一の幸せ者だ。


「ほ、本当?」

「ホント。」

「ゆいちゃん、俺……。」
確かめたくて、もう一度寄せた口唇。

「大好きだよ。」
拒否されることなく今度こそ辿り着いたそれは、無事にずっと触れたかった場所へと触れる。

「う、んッ……!」
柔らかく食んだ口唇は、甘い甘いアイスの香り。


甘くて美味しい恋の果実。
今日からずっと───俺のものだよね?


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