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■ワンツースリー

「ハイ、全然ダメ──。」

「え、うそうそ!どこが?!どこ間違ってる?!」

「どこって……スペルも構文も全然違うし。」

なんて、俺にしては珍しく机にかじりついてノートと睨めっこ。
勉強は学生の本分。
というワケで、試験前のこの時期だけはどうしたって避けて通れない。

けど、「勉強教えて!」とゆいちゃんに泣きついたのは、実際のトコロ下心が半分。
面倒くさがられても、「塾いけば」とあしらわれても食い下がったのは言うまでもない。
詰られたっていいんだ、楽しいから。
───って、俺はマゾですか!


「だいたいさぁ、こういうトコ見られてあーだこーだ言われるのって私なんだからね。」
いちごミルクの紙パックを啜って、ゆいちゃんがため息。

「言われるの?」

「そりゃ言われるでしょ。及川くんと付き合ってるのーとか、いい迷惑。」
グサリ!
これ以上ないくらいの直球が胸を奥まで抉り取る。

だけど、俺は笑うんだ。

「大丈夫!ゆいちゃんは俺が守るよ!」
目一杯の笑顔で言えば、ゆいちゃんはますます呆れ顔で。

「超ウザ。」
なんて、また俺の心臓を抉る。


女の子にキャーキャー言われるのは嫌いじゃない。
ううん、むしろ大好き。
だって気分がいいし、女の子ってふわふわしててやっぱり可愛いじゃん。

だけど、こうやってゆいちゃんにチクチク言われるくらいなら、いっそモテなくなったっていいってさえ思う。


「及川の彼女に刺されるとかなったら笑えないよ。」

「彼女はいません──。」

「あ、そっか。フラれたんだよね。」

「もー、ゆいちゃんの意地悪ッ!」
フラれたのは、本当の話。
だけど、ぶっちゃけ原因は俺。

どんなに可愛い女の子と付き合ったって、2週間もしたらだいたいは飽きちゃう。
メールとか電話とか楽しいのは最初だけで、だんだん面倒になっちゃうから自分でも不思議だ。

『ごめんねぇ、バレー忙しくってさ。』
と言えば、大抵の子は泣くか怒るかで、その内いつもフラれてしまう。

節操ないって岩ちゃんに怒られて、「実はモテてねーじゃん」ってマッキーたちに笑われる。
それでも止められないのは、男の性───ううん、本当はちょっと違う。

少しの寂しさと……もっとほんの少しの、期待。


「ねぇ、ゆいちゃん。」

「ん?」

「俺がさ、彼女と別れて……ちょっとはほっとしたり、した?」
答えは決まってる。
決まっているのに、聞いてしまうバカな俺。

他の女の子といたら、ちょっとは妬いてくれるのかな───なんて、あり得ないことをほんの少しだけ期待している。


「あ、」

「え?」
俺の期待なんてあっさりと裏切って、ビリビリに破いて踏みつけてくれたらいい。
そしたらちょっとは諦められるかもしれない。

そう思って俯いた時、

「ここは完璧。やるじゃん、及川。」
文章読解の問題の答えを大きくピンクのペンで丸く囲んで、ゆいちゃんが笑った。

「………。」
その笑顔に、また魅せられる。

「聞いてる?」

「え、あ……うん!聞いてる、聞いてる!さっすが俺!天才!」
いっそフラれてしまえばなんて思うのに、告白する勇気もない。
ヒドイ言葉を期待して、だけど本音では聞きたくない。

女々しいなぁ、こんなの。
本ッ当に情けない。


好きな子を振り向かせる方法がわかんなくて、そのクセ告白もできなくて、本当はフラれるのが怖いなんて───まるで負け犬。
こんなの俺らしくないし、大嫌いだ。

なのに、やっぱり諦められない。


「及川。」

「なぁに、ゆいちゃん。」
大好き。
大好きだよ、ゆいちゃん。

もっと俺のことイジっていいよ。
詰られたって、バカにされたって、俺は全部嬉しい。


「この後、クレープ奢ってー。」

「う、」

「え?」

「奢ります、奢ります!ゆい大先生とクレープ食べれて嬉しいです!」
これってもしかして、デートのお誘い?
って、違ったとしてももういいや。

一緒にいられるなら、なんだって構わない。
ドMでも変態でももーいい!いっそイジめて、女王様!


「じゃ、一番高いヤツにしよ。」
好きだよの一言が言えない俺は、いつだって君の求める俺を演じる。

「でも食べ過ぎたら太るよ、ゆいちゃん。あ、でもちょっとくらいぽっちゃりしても俺は───いったッ!」


今はもう少しだけ、このままで。
トモダチの距離で、君の隣にいさせて。


だけといつかきっと───
きっと、君の手を取るのは、俺だよ。


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