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■YELL

それは多分、ひとめ惚れというヤツだ。

彼女を見た途端、胸の奥に電撃が走って───息が苦しくて、だけど目が離せない。
この感情を説明する言葉は、俺が知る限りそれしかない。


夏の東京遠征、体育館の隅にあった制服姿。
みんなジャージの中でちょっと目立っていたってのもあって、つい視線が吸い寄せられた。
だけど、次の瞬間、

振り返った彼女に───ドキンと高鳴った胸。
そこだけ景色が輝いて見えた。

だけど、目の前にあるのは試合、試合、とにかく試合。
アップ取って、試合して、ペナルティーこなして、また試合。
───気が付いた時には、彼女の姿はどこにもなかった。

どこの学校だろう。
あ、梟谷のマネージャーと話してたから多分同じ学校だ。
だけど制服だったし、バレー部の関係者じゃないのかな。
ぐるぐるぐるぐる、考えたって仕方ないのに、だけど考えるしかできなくて、どんどん彼女のことが気になっていく。


次に会ったのは、遠征も後半に差し掛かった頃。
太陽の照りつけるグラウンド、その脇をまっすぐ体育館に向かって歩いてくる彼女を見た。
入り口に立って、それを見つめた。
ドキンドキンと胸が鳴って、ヤバイ!心臓、口から出そう……って何だ、コレ?!

『ゆい!』
彼女の姿に駆け寄ったのはやっぱり梟谷のマネージャー。
名前、ゆいっていうんだって思って、なぜだかそれだけでまたドキドキして、「お疲れさまです」と挨拶を寄越した彼女に、俺が返した声は多分緊張で上擦ってたんじゃないかと思う。

今度は、彼女の様子を視線で追った。
試合が終わる都度、確認した。
体育館の隅で試合を見つめる様子を何度も、何度も。


彼女が梟谷の元マネージャーで、春に部活を引退した3年生だということは後で知った。
結局ひとことの挨拶だけで終わってしまった出会いを散々悔やんだ俺は、宮城に戻った後で、彼女のことを梟谷の副主将に尋ねたのだ。

これはひどく勇気が要った。
だってすごく恥ずかしいし、第一ひとめ惚れしたなんてなんだか軽薄な感じがして言えない。
だけど気になって、気になって、もしかしてもう会えないかもと思ったら居ても立ってもいられなくなった。

3日かけて悩んで作り上げた遠征についての確認を装った話題で、俺は梟谷の赤葦くんに電話をかけた。
それで、『あ、そういえばさー』なんてさりげない風に繕って尋ねたのだ。

『体育館にさ、制服の子いなかった?』
どうしてそんなことを言うのかと聞き返されたらどうしようと思ったけど、赤葦くんはそんな言い方はしなかった。

『もしかして、三日月さんですかね。』
と彼女の名前とマネージャーだったことを教えてくれた。
本当は、連絡先を聞きたかった。
だけど、やっぱり言えない。

言えなくて、悩んで、だけどやっぱり言えないし……ってそんな毎日を過ごしていたある日、赤葦くんからメッセージが届いた。

『もしかして三日月さんの連絡先とか知りたいですか?』って───なんで?!
顔から火が出るかと思った……!

彼曰く、その話をマネージャーたちにしたら、気が利かないと随分怒られたのだそうだ。
『三日月さんは教えていいって言ってます』と書かれた文字を、俺は何度も確認した。
何度も何度も確認して、やっぱり間違いがないことを確かめて───

『お願いします』
と返事を送った。


それから───
今の俺の携帯には三日月さんとのメッセージのやりとりが溢れている。

部活を覗きにいった話、予備校での出来事、家族の話、受験勉強で机に向かう深夜には『頑張ろうね』とメッセージが送られてくる。
文字と一緒に、たくさんのスタンプがいつも添えられていた。
友達と一緒に撮った写真が送られてきた時は、すぐさまそれを保存した。
(も、もしかしてソレって気持ち悪いことだったりするんだろうか?!)

4.5インチの画面の中に広がる───新しい世界。
ウキウキしたりドキドキしたり、俺の毎日は最近なんだかせわしない。


『模試、B判だった。ちょっと心配。』

『俺も一緒。今日は復習して寝る!』

『だよねぇ、頑張ろー』
そんなやりとりが、だけど俺の内心を支えていたりする。

受験校は、東京の大学って決めた。
部活との両立は正直しんどいけど、苦手科目は予備校にも通うことにした。


それから、

『秋の合宿、応援に行くね。』
春高だって───、俺は負けない!
絶対諦めない……!

『梟谷だけじゃなくて烏野も応援してよ。』
なんて返事を返しながら、ひそかに誓った。
秋の遠征も、きっと行く───!


『電話、ちょっとだけしてもいい?』
深夜0時を過ぎたメッセージに、『うん』と返ってきた答え。

「勉強、まだやってる?」

『うん、菅原くんは?』

「俺もやってる。英語、すぐ復習しないと忘れんだよなぁ。」

もう夜は遅いし、明日も部活。
だけど、そんな時だから───君の声が聞きたくて。


「あ、あのさ。」
伝えたいこと、今はまだこれだけしか言えないけど。

「今度の合宿の時さ……ちょっと話せる?」

『うん、だけどなんか変な感じだね。』

「え?」
合宿に行けるってまだ決まったわけじゃないけど、だけどきっと叶えてみせる……!
だってさ、


『だってなんか、本当はちょこっとしか会ったことないのに───菅原くんと話してるとなんかほっとするから。』
君の声が、そう言った。

「………ッ!」
これは、恋だ。
多分、じゃなくてもうとっくに本当の恋になってる。
ドキドキして、嬉しくて、声が聞きたくて───早く君に会いたい。

『会ったらもっと話せるね。』
そう言って笑った携帯電話の向こうの君に、コッソリと約束をした。

もし次に会えたら、きっと言うよ。
驚かれたって構わない、本気なんだってちゃんと言う。


『俺、君が好きだよ。』
だから、

『俺と、付き合ってください。』
って、きっと言う。

離れていたって、俺は君が好きだ。
春高予選に勝って、受験にだって負けないで、俺はきっと君に会いに行く。
だから、もう少しだけ───待っていてよ。


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