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■エース! 5

「で、どうなの、若利くん?」
尋ねられたのは、インターハイ予選を控えたある日。

「何がだ?」
一通りのメニューを終えて後はストレッチをして部活も終わり、そんな時間だった。
下世話な顔を向けるチームメイトに顔を顰めると、

「だから、及川ゆいチャンだよ。進展あったの?」
その声に周りにいた連中まで振り返った。

「特に問題はない……と思うが。」

「えー、それって。」

「進展ないってことスか?」
矢継ぎ早に飛ぶ質問に、ぐっと眉間に力が入る。
まったく……しっかりクールダウンしておかねば怪我につながるというのに。
真面目にやれ!と一括しようと思うが───ふと思い当たって、口を噤んだ。

及川ゆいとは挨拶や短い会話を交わす程度の関係にはなったものの、確かにそれ以上の進展はない。
試験期間も終わってしまって、二人きりで話す機会は減っていた。

周囲の意見を聞くことも大切だ。
これは、次の段階へ進む上でのいい機会かもしれない。


「連絡先とかは知ってるんですか?」
問いかけられて首を振る。

「いや……。」

「えー、じゃあ学校でしか話せねぇじゃんか!」
ストレッチの体勢に身体を曲げたままで器用に顔を向ける相手を見た。

「何?」

「いやいや、だからぁ───!」
どういう意味だと尋ねる俺に、盛大なため息。

すると、俺のすぐ脇にいた後輩がノートを広げた。
チームの正セッターである白布だ。

「いいですか、牛島さん。」
白布の真剣な視線は、まるで試合中そのもの。
本来は練習中のメモを取るためのノートだが……まぁ、いいだろう。

『挨拶→会話→連絡先を聞く→LINEで会話』
ノートにそう書き留めて、「LINE」という文字を丸で囲んだ。

「ポイントはここです。」
この辺りになると自然と人だかりができていて、ストレッチはどこへやら。
───話が終わったら、もう一度やり直しだな。


「このラインで!学校では話せないことで盛り上がったりするんです。そうすると、一気に距離が縮まります。」
……なるほど!
さすが白布。
俺がトスを任せる男、頼りになる。

「それで、どうやって連絡先を聞いたらいいんだ?」
感心ついでに聞いてみる。
連絡先を聞けばいいことはわかったが───その辺りもこの際だからキチンと確認しておきたい。
できるだけ……そう、及川ゆいに好印象を与えるようにしたい。

「あー、面倒くせぇな!若利、もういーから告れよ!」

「何?」

「だ、ダメです!ここは冷静に……!パワープレーだけがバレーじゃないですよ!」
そう言った白布がノートに書き加えた文字。

『挨拶→会話→連絡先を聞く→LINEで会話→“告白”』

「十分に仲良くなってから!ここで告白です!」
そのためにもポイントはココですよと、再度丸で囲った文字を示されて頷いた。
これは……なんとしても彼女の連絡先を聞き出さねばなるまい。
しかし、パワープレーはダメだとなると一体どうやって?!


「そうだ、試合!試合ですよ!見に来てって言ったらどうですか?」
俺の考えを見透かすように言うのは、やはり白布は頼りになる。


「で、日程とか連絡するからって言うんです。」
それなら自然に聞けますよ、と澄み切った笑顔で送られたアドバイス。

なるほど、作戦は十分。
早速───俺はそれを実行することにした。



「インターハイ……。」
朝練の後、いつもの時間に声をかけた。
最近は挨拶だけでない話もするようになっていたから、話題を振るのは意外に容易だった。

「ああ、もうすぐ始まる公式戦だ。それで、よかったら……見に来ないか?」
どんな大舞台でも緊張などしないというのに、この時はつい肩に力が入った。
努めて自然に、しかしハッキリと言わねばと心がける。
───背後に、チームメイトの視線を感じた。

「でも……。」
な、何……!
握った拳に力が入る。
まさか断られるのか?
そう思ったが、違った。

「バレーの試合って、前はよく徹くんの応援行ってたけど最近は全然行ってなくて。」
困ったように首を傾げて、彼女の瞳が俺を見る。

「だってすごくキャーキャー言われてるし、そういう女の子になんか勘違いされて睨まれたりとか面倒くさい。」
及川が親しげに彼女に声をかけるのを見て、妹だと知らずに嫉妬めいた態度を取る女たちがいる───それが面倒だったと彼女は言う。
また及川……こんなところでまで俺の邪魔をする気か!

「牛島先輩もさ、ホラ……有名人だし、人気あるでしょ?」
しかし、そんなことで怯む俺ではない。

「そんなことはない。白鳥沢は硬派なチームだし、応援に来る学生も皆真面目だ。」
実際そうだ、及川目的で女が群がるコートとは違う。
それに───

「それに、俺が応援してほしいと思っているのはおまえだけだ。」


「えっ……。」
彼女の瞳が見開かれる。
明らかに驚いている顔だった。
だが、何か───俺はおかしなことを言っただろうか。

「だから、連絡先を教えてもらえないだろうか。試合の日程を連絡したいんだ。」

「え、あ……うん。」
驚いた顔のまま彼女は携帯を取り出して、連絡先を教えてくれた。
ひとまずは作戦成功、後のことはまたチームの連中に───

と振り返った先、


「すげぇ、若利!」

「牛島さん、尊敬します!」

「やー、やっぱ超高校級は違うネ!」
一斉に群がるチームメイトに、今度は俺が驚いた。
おまえたちの言う通りにしただけだというのに、何が「すごい」というんだ?

まさか謀ったのかと一気に眉間に皺が寄るが、

「これはいけますよ、かなり響いてたと思います!」
と言われてほっとする。

「そうか?」

「ええ、次も頑張りましょう!」

「あー、俺もアレくらいハッキリ言いてぇ!今のは格好いいわ、若利!」

何がハッキリで何が格好いいのかさっぱりわからないが、ともかくも俺は及川ゆいの連絡先を手に入れた。

勝負はここから。
俺は、きっと───おまえを手に入れてみせる。


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