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■恋の果実 6

チェックのプリーツスカート。
すらりと伸びた足が眩しい。
エロいって言うと怒るけど、甘えれば案外膝枕なんかさせてくれてそれが嬉しかった。

ピンク色の口唇はいつも甘いにおいがして、
もっとゆいちゃんに触れたら、どんな味がするんだろうって何度も想像した。


そのゆいちゃんが俺の目の前に現れたのは───春高の宮城予選。
まさかね、そんなことって予想してなかった。
だって、君をなくした体育館で……今度は君に出会うなんてさ。

金田一や国見ちゃんの最後の大会ってことで、その日は当時のチームのメンバーが集まった。
大学の練習が終わった足で新幹線に乗って、俺も会場に駆けつけた。

会場の熱気。
興奮する応援団とわっと沸き上がる歓声。
バレーはずっと続けてるけど、やっぱり大学バレーとは違う。
春高の雰囲気は特別だ。

IH予選はベスト16だっていうから心配してたけど、目にして見ればそんなことはまったくなかった。
「なかなか逞しくなったじゃん」なんて感心して、気になっていたチームのコートに足を向けた。
悔しいけど無視することのできないもう一人の後輩。
同じく8月予選組のソイツも、この大会がラスト。

飛雄がキャプテンになった烏野のチーム。
チビちゃんとの躍動感溢れる攻撃はそのままに攻守の連携も多彩さを増していた。

「ったく、やんなっちゃうよね。」
呟いて、「ねぇ、岩ちゃん」と振り返った先───あ、無視するなんてヒドイ。
明後日の方向を向いた岩ちゃんに嫌味を言おうとして、見つけてしまった。
その視線が向けられた先に……君の姿を。

「ゆいちゃん!」
何年経ったって見間違えるはずがないよ。
2年振りに会ったゆいちゃんは、制服のプリーツスカートじゃなくて真っ白なパンツルック。
淡い色のトップスがよく似合っていて、キチンとお化粧をしたキレイな顔が大人びて見えた。

「ゆいちゃん!ウソ、ゆいちゃん……どうして!」
どうして?
どうしてここにいるの?

だって、ここ宮城だよね?
ゆいちゃんは東京に転校して、それから東京の大学に進学したって聞いた。
いつか会えたらと願った君が、だけどどうしてここにいるのかわからなくて、駆けだしていた。

「ゆいちゃん、俺……!」
ずっと会いたかった。
ずっと好きだった。
ずっとずっと探してたんだよ。

そう声をかけようとして、伸ばした腕が空を切る。

体育館の歓声。
一歩後ずさったゆいちゃんの手がつかんだ先、それを視界に捉えた時───すべての音が消えた気がした。

俺よりもゆいちゃんよりも、きっと一番驚いた顔をしていたのは、彼だった。
大きく目を見開いて、だけどゆいちゃんの手をしっかり握って俺を見た。


「あ……。」
その顔は知っている。
よく覚えてる。

高3のインターハイ予選。
ネットを挟んで向き合ったことが、一度ある。
丁寧で誠実で、まっすぐとボールと向き合うプレイ。
その顔よりももっとよく覚えている。

彼は───爽やか君は、飛雄の先輩で同じセッター。
俺の憎くて可愛い後輩に、「セッターとは何か」を教えた男、俺はそう思っている。


「徹……。」
ため息のような声が、ゆいちゃんの口唇から零れる。
その声に、泣きたくなって、だけど同じくらい笑いそうになった。
だって、今の俺ってすごく滑稽だ。

ゆいちゃんさ、その人と付き合ってるの?
俺のゆいちゃんはさ、今は彼のものなの?
俺と手を繋いだみたいにソイツの手を取って、俺に笑ってくれたみたいに微笑んで、ソイツとキスしたり、それで……それで……!


「及川!」
岩ちゃんに腕を掴まれて、ようやく音が返ってきた。
階下のコートを見れば、飛雄とチビちゃんの神業速攻が決まった瞬間らしい。
相手コートに叩き込まれたボールが派手な音を立てると同時、大きく沸き上がった歓声が会場を包み込んだ。

「岩ちゃん……。」

「悪い、三日月。俺らも青城の応援きててさ。」
継ぐべき言葉を見つけられない俺に代わるかのように岩ちゃんはそそくさと喋って、「行くぞ」と俺の腕を引いた。

「オマエも……悪かったな、菅原。」

ああ、そうだ。
菅原くん。
菅原くんだったね、確か。
烏野の2番君、飛雄の先輩、それで俺の───恋敵の名前。


観客席に腰を下ろしてただじっと空を見つめた。
口唇を噛んで、ようやく「どうして」と声が出た頃には、飛雄の試合はとっくに終わってしまっていた。
あーあ、可愛い後輩がどこまで憎らしく成長してるかじっくり観察しようと思ってたのに残念。


だけど空っぽの心じゃ、そんな嫌味さえ上手く喋れない。

「ひでぇ顔してんな。」

「元がいいんだから岩ちゃんよりはマシでしょ。」
これだけは条件反射、岩ちゃんに感謝してる。
だけど、実際───俺はヒドイ顔をしてるんだろう。


神様はイジワルだ。

そう、イジワル。
だって、せっかく会えたゆいちゃんは、会えなかった間よりももっとずっと遠い。
手を伸ばしても届かない。
だってゆいちゃんの手は、菅原くんが握ってるんだから。


しかもさ、俺が大事にしてる「もう一つ」まで取り上げようっていうんだから───ホント、神様も性格悪いよね。


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