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□だから、FOR YOU 7

「宮先輩ッ!」

部活終わりの昇降口で、顔を真っ赤にして駆け寄ってきた1年。
その目的を理解しつつ足を止めた。
まあ正直、こういうことは珍しくない。

「あの、少しお時間よろしいですか。」
「ええよ」と答えつつ、これから返す言葉を考えるとつい顔がにやけてしまう。

「わ、私!ずっと先輩に憧れてて……その、良かったらこれ、読んでください!」
なんて差し出された手紙。
可愛らしい封筒の中には、きっとこの子が一生懸命に書いた告白の文章とLINEのIDが書かれているのだろう。

今までだったら自慢のタネにしかならなかったそれだけど、今はちょっと違う。
告白なんてえらい勇気がいるのに俺のために頑張ってくれたんやなとか、割とそんな気持ちになったりする──と言ったら、角名に「キモッ」とド直球で引かれたんやけど。


「ごめんな。」
今までだったらとりあえずは受け取っていた男の勲章。
だけど、今は違うねん。

「受け取れへんわ。」
まあるく目を見開いた彼女に、笑顔で告げる。

「俺、彼女おるから。ごめんな、受け取れへん。」
もしかしたら俺、盛大ににやけてしまっとるかもしれん。
けど、しゃあないやろ。

「彼女おるから」、そのフレーズがたまらなく気持ちいい。

「彼女」という単語を発すると三日月の顔が頭に浮かんで、結局「ふふふ」と笑ってしまう。


三日月が、俺の彼女になった。

一週間のユース合宿から帰った直後、「渡したいものあんねん」と放課後の教室で二人。
一人か二人残ったクラスメイトがなかなか帰らなくて焦ったり、「あかん、部活遅刻する」と慌てたり、だけど『ずっと好きやった』ってようやく告げたら、なんだかえらいほっとした。

『これ、東京の土産。』
古森くんご推奨の「女子なら絶対喜ぶ」らしい有名店のチョコレート。

『いいの。高いでしょ、これ。』
三日月はちょっと驚いて、だけど嬉しそうに「ありがとう」なんて言われたら、やっぱり嬉しい。

『ほ、本命チョコやで。』

『え、バレンタインにはまだ早くない?』
ずっと緊張し通しで、だけど三日月が笑ってくれたから、

『ちゃうくて、』
想像したよりもずっと、スムーズに言えた気がする。

『ずっと好きやった、三日月のこと。だからそれ、そういう意味。』

照れくさくて、少しだけ情けなくて、でもやっぱりほっとした。
ああやっと言えたんやってほっとした。

友達の距離でもどかしい気持ちを抱えてた時間、男と東京行ったんやって思ったら頭がバーンてなったみたいにショックで、それで治が三日月に惚れとるって知って焦って……もうずっと緊張しっぱなしだったから。

これで終わりかもしれないとか、思ってないわけじゃない。
三日月は彼氏と別れたばっかりだし、友達だった俺のことなんか眼中にないかも。
治の方がいいって言われたら多分相当落ち込むけど、そういう可能性だって考えてる。

それでもほっとした。
今まで張り詰めていた気持ちが溶け出したみたいに力が抜けて、そしたらなんでかまた泣きたい気持ちになった。

疲れたなあって、思ったのかもしれん。
手に入らないとわかっているくせに諦められなくて、ギリギリの距離でいつも三日月を見てた。

言いたくて、言えなくて、寸前で立ち止まって。
何度も何度も。


ああ、だけど──

『ありがとう。』
もう一度そう言って、三日月は笑った。

それで、
『じゃあ、これからよろしく。』

『えっ、』
寄越された言葉に、思考停止。
さっきまでのぐちゃぐちゃが一瞬で凍り付いたみたいになって、

『な、なんて……今……。』

『うん、だからよろしくって。付き合うんじゃないの。』
きょとんとした目で三日月に見返されて、それでようやく理解した。

俺、告白成功したんや!って。

『つ、付き合う!付き合うに決まってるやろ!』
手のひらから汗が噴き出して、笑っているのか困っているのか、表情筋がどうにかなったみたいになる。

『今日から彼氏彼女やでっ!』

『うん、そだね。』
マジか、マジで?
え、ほんまに?
そもそもなんで俺、フラれる気になってたんやったっけ?

だけど、そんなん──全部、結果オーライやろ!



「まーた、顔笑ってる。」

「笑ってへんし。」

「どうせ女の子に告白されたんでしょ。」
少し遅れてやってきた三日月がお決まりの苦笑いを寄越して、

「ちゃんと断った?」
それからイタズラな視線で見上げる。

「当たり前やろ!」
言いながら手を取って歩き出すのは、もう何度目かの帰り道。

付き合おうってなって、それから週に何度かはこうして一緒に帰る約束をした。
図書館で待っていてくれた三日月と部活終わりに二人、いかにもカップルって感じやろ?

「まあ、バレーしてるミヤアツは格好いいもんね。」

「いや、バレーだけちゃうし。」

「えー。」
笑い合って交わす言葉は友達だった以前と変わらないけど、隣を歩く三日月の距離はずっと近い。

それに、

「なあ、そろそろその呼び方やめへん?」
一つずつクリアしていく課題。

「……じゃあ、侑!」

「!」
そのたびにドキドキして、また欲張りになる。

「……今日こそちゅーしたる。」

「アハハ。」

「なんで笑ってんねん。」

胸に響く心音が心地よくリズムを刻む。
ドキドキして、まだ少し緊張して、やっぱり友達とは違うよななんて噛みしめて。

切なくて、恋しくて、あったかくて、時々ひやっとする。
誰かを好きになるってこういうことなんやなと三日月に触れるたびに思う。


「あんな、」

「うん?」

「ゆい。」
ずっと呼びたかった名前で、呼んでみる。

「好きや。」
何度でも伝えたくて、告げた言葉。

冬の風に首をすくめて、「寒い」と小さくつぶやく口唇。
それが少しはにかんで、

「私も。」

教えてくれた、愛しいという気持ち。


ずっと大事にするから。
この気持ち、忘れたりせんから。

思いを伝えたくてぎゅうと握った手から伝わる体温に、また気持ちを強くする。

ああ、ほんま。
ゆいのこと、好きになってよかった。


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