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■恋の果実 4

そもそも最初から心配はしていた。
「あの」徹と遠恋なんて出来るのかって。

『及川くんとヤっちゃった』
なんて、情緒の欠片もない言葉だとは、今だから思うことで……実際に聞いた時は、目の前が真っ暗になった。
違うな、多分真っ白。
世界が全部フリーズして消し飛んじゃう、そんな感じ。

悲しいとかムカツクとかより前に、一番最初に思ったのは「終わったな」ってこと。
私に降りかかった出来事「遠恋中のカレシが浮気」を解決する方法は、大きくわけて3つ。

1) 我慢して聞かなかったフリをする
2) 怒って喧嘩する
3) 別れる

1) は、ない。
我慢ができるようなしおらしい女じゃないことは、自分が一番わかってる。
じゃあ、2)は?
多分、無理。
「もうしない」って言われたところで、心配で心配で仕方なくなるのは目に見えてる。
簡単に会える距離じゃなくて、しかも相手は及川徹で、心配しないでいるなんて絶対無理だ。
選べる選択肢は、3)しかなかった。
それでも、決意するのに一週間かかった。

お調子者で軽薄で、そのクセ根性の捻れた男。
だけど、本当は情に熱い性格だって知ってる。
人一倍努力家だって知ってる。
一生懸命好きになってくれたって───わかってる。
だから、好きだった。

徹のことを、「好きじゃなくなる」のは大変だ。
だけど、私は別れを告げて、徹はたくさん言い訳をして「好きだよ、ゆいちゃん」って何度も言ったけど、もう後戻りはできなかった。

なんとかなるって思ってた。
いつか、なんとかなるって。
徹にカノジョができて、私にもカレシが出来て、お互いのことをいつか忘れて───そんな日がくるはずだって思ってた。


だけど、その「なんとか」を出来ないまま、私の大学生活1年目は終わりを迎えようとしていた。

カレシはすぐ出来た。
受験が終わってすぐ、予備校で知り合った男の子と付き合った。
その後、新歓コンパで知り合った先輩と、夏休みに友達としたバーベキューで知り合った男の子と、合コンで知り合った社会人2年目の人と───……我ながら、情けない。
つまり、私の恋愛はまったく長続きしていないのだ。

いいかな、とは思う。
一緒にいると結構楽しい。
だけど手をつなぐと違和感、キスすると───それだけで身体が固まってしまう。
だから、それ以上先に進めないで別れてしまう。

徹と付き合っていた時は、いくらだってキスできた。
たくさんの言葉と同じだけ、たくさんキスをした。
それが出来なくなってしまったのは……コレってもしかして男性不信てヤツ?!

誰かと付き合うのとか、もう止めよう。
だけど、カレシのいる友達が羨ましい。

菅原くんと出会ったのは、そんな時だった。
いかにも「恋愛」っていう雰囲気をあんまり感じさせない彼の隣は居心地がよかった。
優しいしいつも明るいし、全然ガツガツしてないし。
今までのカレシとも徹とも違う、初めて会うタイプのひと。

この人と付き合う女の子は幸せだろうなって思った。
自分がカノジョだったら───いいなとも、正直思った。

だけど、
「付き合ってください!」って、やっぱり言われると戸惑ってしまって。

また「無理」だったらどうしよう。
不安で、怖くて、だけど、

「……ダメ、かな。」
眉を下げて力なく笑った菅原くんの顔に、私は首を振っていた。


その後言ったセリフは、その後何度も菅原くんから笑われたけど、

「キス、してもいいかな?」

「え?」
それが、二人のスタートライン。

「今?ここで?」

目を丸くして驚いた表情の菅原くん。
「参ったな」って頭を掻いて、だけどその後……

「さすがにここじゃマズイべ。」
と手を引いてくれた先。

講堂裏の階段の下で───彼と初めてのキスをした。


「ぅ、ンッ……。」
そっと押し当てられた口唇はあたたかくて、優しくて、それから───日だまりのにおいがした。


はじまりのキスは、恋の味。
二度目に触れた口唇から伸びた舌が歯列を割り開いて、甘い甘い時間をくれた。


「あの、ね。」

「んー?」

「今日から、よろしくお願いしマス。」

長いキスの後で告げた言葉に、三度目のキス。


「こっちこそよろしくな。」
はにかみがちな笑顔がくれたキスが頬に落ちて、今度こそ───私は一歩を踏み出したんだって、そう思った。

だから、この時の私は未来に待っている苦しさなんて想像もしていなかった。
明るい色の眼差しに心を任せれば、それだけでいい。
そう信じていたあの日、確かに───確かに恋をしたのに。


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