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■ハートビートセンセーション

「なあ、」
昼休みの食堂、角名と二人でテーブルで向き合っている。

「角名は……彼女おったことある?」

「え、なに急に。」
俺の言ったことが余程めずらしかったのか、角名も常にない様子で聞き返してきて、

「別に。」

「いや、別にってなに。」
そんな言い合いになる。

だけど、

「……なんて言ったらええのかわからん。」
なんでそんなこと聞いたのかって、言われたって困る。
だって、そんなのうまく説明できない。


「前にちょっとだけ付き合ってたことあるけど……。」
俺が何も言わずにいると、角名のほうが先に口を開いた。

「ほんま?!」
思わず身を乗り出すけど、角名は気のない様子でキツネうどんの油揚げを箸でつまみながら、

「でも、すぐ別れちゃったんだよね。あんま好きじゃなかったっていうか。」
そんな風に言うから、つい本音が出た。

「……それじゃあ、参考にならへん。」
はあ、とため息をついて目の前のカツカレーへと意識を戻したところで、角名が顔をあげた。

「え、」

「なに?」

「マジで?」

「だから、何が。」

「治、それ本気?」

「だから、何がって。」
やりとりの後、角名が声を低くした。


「それって好きな子できたってこと?」

「!」
せっかく角名がボリュームを下げてくれたというのに、俺が反射的に椅子を引いたことで大きな音が出て、周囲の視線が集まった。

「ちょ、急にへんなこと言うなや。」

「治が言ったんじゃん。」
慌ててカレーをひと掬いして、スプーンを口に突っ込んだ。

「これ、結構辛いな。」

「そうだっけ?」

「そうやって。食ってみる?」

「いらない。ていうか、その前に……。」
白米とカレーを咀嚼しながら、周囲に元のざわめきが戻るのを待つ。

無用な注目はされたくない。
それに、角名にだって……。

「ねえ、治ってば。」

「……。」
だけど、それは無駄な抵抗。

まわりの関心は治まったけど、角名の追求からは逃れられそうにない。

「自分から聞いたんじゃん。」

「……。」

「別にいいけど、中途半端に言われると気になる。」

「……。」
なんとか無視を決め込んで、黙ってカレーを掻き込むけれど、

「じゃあ、侑に聞いてみよっかな。」

「ッそれだけはあかん!」
容赦ない角名のひと言に、口に入れたばかりのカツを慌てて飲み込んだ。

「んぐ、」

「ちょっと。」

「み、みず……。」

「そんな慌てないでよ。死んだらびっくりするじゃん。」

「……ッは、それビックリどころちゃうやろ。」
差し出されたコップの水を角名の分まで飲み干して、ようやくひと息ついた。


「はあ、なんやねん……まったく。」

「こっちのセリフだけど。」
うどんを食べ終えたらしい角名が頬杖をついてじいっとこちらを見るから、また焦った。

「せやからなんでもないって。」

「往生際が悪いよ。」
そんなこと言われたって、やっぱり困る。

なんて言ったらええんかわからん。
モヤモヤして、うずうずして、ずっと抱えてる気持ちをどう表現したらいいのかなんて本当にわからないから。


その時、

「あ、」

「え?」
学食におったなんて気付かなかった。
いつだって探してるのに、どうして気づかなかったのかってそのことを悔いる。

そうや、いつだって、もうずっと、俺は──


「あ、宮くんだ。」

「おう。」
俺の視線に気づいたのか、テーブルのすぐ横を通り過ぎようとしていた三日月が足を止めた。

「今日、午後一緒だね。」

「そ、やな。」
途端にドキドキと暴れ出す胸、いつから俺はこうなってしまったのかもう思い出せない。

「宿題、長文のとこわかんなくて丸々飛ばしちゃった。」

「あー、俺も。」

「じゃあ、早めに行って誰かに聞こうよ。」

「せやな、そうしよ。」
おかしなとこないかな、変なこと言ってへんかな。
角名が見てると思うと、余計にそれが気になった。

「またね、宮くん。」

「じゃあな、三日月。」
手を振った三日月が背中を向けるまで、やたらと緊張しっぱなし。


「ふうん。」
お見通しとばかりに目を細めた角名が俺を見て、そのことにまた慌てる。

「選択科目、一緒やねん。」
言わなくてもいいことをわざわざ説明していると自覚しているけど、なぜだか言葉が止まらない。

「それで?」
と角名に聞かれて、ついに観念した。


「……この前、試合見に来とって。多分、初めて。」
いいなと思ったあの子の姿をギャラリーで見た。

それだけで色んなもんが弾けたみたいな気持ちになって、焦ったり気張ったり、いつもより少し背筋を伸ばしてみたり。

あの日からもう、自分のことがようわからへん。

三日月を見るとドキドキする、三日月とおるとようしゃべれへん。
それなのにもっと一緒にいたいと、どうしてか願ってしまう。


「アハハ、治ってそうなるんだ。」
空っぽになったカレーの皿をカリカリとスプーンでひっかくと、それを見ていた角名が声を立てて笑った。

「なにがや。」

「いやいや、今更でしょ。」
無駄な抵抗とわかっても認めるのはやっぱり照れくさくて。


「好きな子できた治って、見応えあるね。」

違うとは言えずに、俯いて頭を掻いた。


「なんやねん、それ……。」

認めてしまえばラクになるのか、それとももっとしんどいんかな。

彼女の作り方とか、どうやったら付き合えるとか、今までそんなこと考えたことなかった。
だけど、今はそれが知りたい。

三日月のこと、他の誰かに取られたくないから──だから、俺のもんにしたいって思う。


侑に聞く?

アホか、そんなことしたらえらい目にあうに決まってる。
角名でさえこんな反応や、侑なんかに知られたら死ぬほどいじり倒されてロクなことにならないのなんか明らかや。

だけど、どうしたらいい?
どうしたら、三日月は俺のもんになってくれる?


午後の授業がはじまったら、きっとまた俺の心臓は大暴れ。
三日月の声を聞くだけでやたらと身体が熱くなって、顔を合わせようものならもうどこを見ていいのかわからない。

それでも会いたい。
だけど、会いたい。


なあ、ほんま……
この気持ち、どうしたらええの。


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