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■恋の果実 3

難しいのは愛することではなく、愛されることである。
そんな風に言ったのは、一体誰だったか。
格言めいて聞こえる言葉だけど、俺には───当てはまらない。

実際、真逆だった。
行く先々で女の子に囲まれるのは、中学時代から変わらない。
地元宮城から東京の大学に移っても同じだ。

同級生、先輩に後輩。
熱心な子は、リーグ戦は勿論、部活の練習も見に来てくれて「ファンです」なんて差し入れをくれる。

つまり俺は───世の男たちよりもずっと簡単に、ずっと多くの女の子に愛されている。


だけど、
ただ一人、自分の大好きな女の子を見つけた時、どう愛したらいいのかがわからない。
いや、「わからなかった」というべきか。

君に触れたくて、もっと近くにいたくて、ずっと抱き締めていたいのに叶わない───そんな時どうしたらいいのか、俺にはそれがわからなかった。

大好きだよ!
愛してるよ!
俺と結婚して!
あらゆる言葉を注いでも、彼女の傍にいることは叶わなかった。

『あたしの気持ち、全然わかってない!』
『そんなんだったら最初から好きだなんて言わないでよ!』
さんざんに打ち返された愛の言葉は、ゆいちゃんの前に砕け散った。


ゆいちゃん、俺の大好きなひと。
世界中でたった一人、俺の大切な「カノジョ」。



高3のインターハイ予選が終わった後、俺はゆいちゃんに振られた。
最後に交わした言葉が電話だったのは、それが所謂「遠恋」だったからだ。

猛アピール、猛プッシュの末、高1の終わりに晴れてカレシカノジョになって……それから1年と少し、ゆいちゃんはお父さんの転勤について東京に行ってしまった。
「卒業まで宮城にいたい」って彼女は言ってくれたけど、結局高3の進級にあわせて転校することになった。

離れていても夜は毎日電話をしたし、部活の前と後にはメールもした。
大好きなんだから当然だよね。

そんな大好きなゆいちゃんと別れることになったのは───例えば、幼なじみの岩ちゃんいわく「オマエが悪い」ということらしい。
……そう言われるのは辛いけど、だけど多分その通りだってことは俺も一応自覚している。

ありていに言えば、「浮気」だ。
よくあることだって?!
ヒドイ!違うんだってば!!
俺はゆいちゃんが大好きだったし、東京と宮城に離れたってそれは変わらない。
だけど、やっぱり寂しい───それはつまり、「物理的」に。
だから、「カノジョいるよ」ってちゃんと言って、「それでもいい」って子とは……まぁ、エッチしちゃったんだよね。


インターハイ予選、ゆいちゃんは新幹線に乗って応援に来てくれた。
観客席に彼女の姿を見つけた時はそりゃもう嬉しかったし、思わずはしゃいで岩ちゃんに頭を叩かれた。

だけど、俺がゆいちゃんに会ったのはそれっきりだ。
決勝戦が終わっても、それから1日経っても2日経ってもゆいちゃんからは連絡がない。
電話にも出てくれないし、メールも返ってこない。

第一、 俺に会わずに東京に帰っちゃうなんて……
落ち込みかけた頭に、まさに一撃、『もう別れよ』と携帯に一言だけのメッセージが届いたのは、一週間を過ぎた昼休みのこと。

岩ちゃんに泣きついて、「鼻水拭け」って怒られて、返事のないゆいちゃんに何度も何度も電話をかけて……危うく部活に遅刻しそうになった。
やっと話せたのは、その日の深夜で……それで、言われたんだよね。

『徹のこと、女の子たちが話してるの聞いた。』って。

マズイとかヤバイとかよりとにかくゆいちゃんを失いたくなくて一生懸命喋った言葉は、後になれば全然覚えていなかった。
だけどとにかく必死で……でも、届かなかった。

俺が好きなのはゆいちゃんだけだよ。
エッチしたいのだって、本当はゆいちゃんだけなんだから。


───ああ、愛するってムズカシイ。
それから俺はいろんな女の子と遊んで、それなりに経験値を積んだけど……結局、一番触れたかった女の子には触れられないままだ。

そう、俺とゆいちゃんは、まぁなんていうか……清い関係というか、つまり……えーと、つまりね、エッチしたことないまま終わっちゃったっていうワケ。

好きだから大事にしたいって思ったし、「待って」って言われたらいくらでも待てた。
だけど、このまま一生君に触れられないなんて───想像してなかった。


その君が───また俺の前に現れたのは、夏の日。

2年ぶりに見た君の……笑顔、高校生とは違う大人びた笑顔。
奇跡みたいに輝いて見えた。

ああ、俺はやっぱりこの子が好きなんだ。
大好き、大好き、大好き、百回言っても足りない……!

そう思うのに───君の隣には……俺じゃない男。
しかもさ、それが「彼」だなんて人生って残酷。


本当に───人を愛するって難しい。


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