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□だから、FOR YOU 2

俺のまわりはいつも賑やかで、まあ学校生活は充実そのもの。
朝に晩にバレーして、間の授業中なんかは居眠りもするけど、先生に怒られたってそこはご愛敬。

「県大会、すごいやん。」

「な、連続優勝やってな。」
稲荷崎のバレー部は県内屈指の強豪で、2年にして俺はそのレギュラー。
しかも今年はユースの招集もかかったし、「高校ナンバーワンセッター」なんて呼ばれて雑誌の取材も受けた。

「あったり前やろー!そんなん優勝するに決まっとるわ。」

「あはは、相変わらず自信家やなあ。」

「でなきゃ、そんな頭できるはずないよな。いまどきどんだけ金髪やねん。」
いじりいじられ、友人関係も極めて良好。

しかも、

「宮ー、お客さーん!」
なんて、呼び出されて行ってみたら3年の先輩。

「ごめんね、休み時間に。」

「別にええですよ。それよりなんですか?」
美人で有名な先輩の登場に、クラスの連中も興味津々でこちらを見ているのがわかる。

「これ、よかったら読んで。」
クラス中の視線を背中に受けながら、手渡された手紙。
じゃあね、と背を向けてすぐに先輩は行ってしまったけど、それを見ていたクラスメイトが飛びついてきてすぐに揉みくちゃにされた。

「またかよー、おまえ!」

「しかも、あの人!ちょー有名な先輩じゃん、めっちゃ美人!」
渡された可愛らしい封筒はおそらくは世に言うラブレターというヤツで、中にはLINEのIDなんかがきっと書いてあるのだろう。
バレー部のレギュラーになってからこっち、こういうことは正直しょっちゅうで女の子のパターンなんかにもすっかり慣れてしまった。


──だけど、一番肝心な誰かさんに対してだけは一向に慣れるということがないのだから困ったものだ。


「はあ、モテる男は辛いわ。」
予鈴が鳴って席に戻って、もらった手紙を机にしまう。

「とか言って、顔笑ってますけど。」

「えー、そんなことないやろー。」
苦笑いして首を傾げる、そんな仕草さえ可愛いなと思ってしまう。

「いや、めっちゃ笑ってるから。わかりやすすぎ。」
三日月ゆい──はっきり言ってしまおう、俺のひそかな想いびと。

「まあでも、確かにすっごい美人。ミヤアツにはもったいないんじゃない。」

「なんでや!」
向けられたいたずらな視線に一気に心臓が跳ね上がる。

どうなっとるんやろ、俺。
三日月に何か言われるたびにいちいちドキドキして、このままじゃ血管破裂するんじゃないかっていつも思う。

「ま、付き合わへんけどな。」

「へえ。」
友達の距離で、「普通」を装うのは一苦労。
だけど、そんな苦労なんてクソくらえ。

「俺、こう見えてコウハやねんぞ。」

「ぶはっ、ウケる!」

「ウケるとこちゃうやろ!」

「えー、”こう見えて”は納得だけど。」

「おいこら、三日月。」
そんな会話が楽しい、こんな関係が嬉しい。

隣の席、教室の中で一番近く、だから一日のうちの四分の一くらいは三日月を独り占めしているってこと。
え、ちょっと違う?ええやん、そういうことにしといてや。

「言うとくけどなあ、」

「アハハ……ってヤバ、先生来たじゃん。」

「え、それはほんまにヤバイ。宿題やってへんし。」
休み時間のうちに誰かに写させてもらおうと思ったのに、さっきの告白もどきですっかり忘れていた。

「なんでよ、もー。」
さすがに慌てたら、三日月がプリントを貸してくれた。

「とりあえずなんとなく写せば。」

「ええの?!三日月、神すぎるわ。」
な、こういうとこやねん。

イジワル言ったと思えば優しいし、格好いいとも言ってくれない代わりに俺のこと特別扱いもせえへん。
三日月のそういうとこに惚れて、それで──もう半年。


好きやって、言えない理由。

クラスメイトだからとか、友達だからとか、そんなん今更恥ずかしいやろとか。
言い訳なんかはいくつもあるけど、本当のところ決め手は一つ。

三日月には──彼氏がいる。

同じ学校の3年で、まあ属に言う優しい先輩的なヤツ。
予備校が一緒で知り合ったんだって、三日月は言ってた。

予備校の後に二人でスタバとか、夏期講習の後に自習室とか、なんやそれって正直むかつく。
受験生なら勉強せえや!と言ってやりたいけれど、そんなのはみっともない嫉妬心でしかないことくらい自分でもわかっている。


気付いた時にはもう、引き返せないとこまで来てた。
だけど、おかげさまで手も足も出ない。

いつかとかきっととか、そんなことばかり思って、だけどチャンスは未だやってこない。


だけど、まさか──双子の片割れの行動がきっかけになって、ピンチとチャンスが同時に訪れることになるとは、俺はまったく想像していなかった。


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