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□きみはたいよう 4

これから学校で会うのにLINEが来るっていうのがもう嬉しい。

『おはよ。いよいよ文化祭だー!』
なんてメッセージにスタンプを返した瞬間、

『試合、頑張ってね!』
そんな返事が返ってきたら、ニヤけるなって方が無理。
だってさ、「おはよう」なんてLINE、なんとなくカップルみたいじゃん?


だけど、いざ会うと緊張する。
前日から飾り付けられた教室は賑やかそのもので、朝早くから最後の準備にかかっているらしいクラスメイトの中に三日月もいた。

「お、はよ。」
この文化祭で、三日月に告白するんだ。
そう思ったら試合の前なんかよりずっと緊張して、声が上ずってしまった気がする。

「おはよー、古森!」
見慣れた制服姿の三日月だけど、なんとなく今日は違って見える。
いつもと違う景色のせい?それとも俺の気持ちの問題?

ドキドキして、顔を見るだけで照れくさくて、

「古森!試合何時からだっけ?みんなで見に行くから勝てよな!」
バシン!とクラスメイトに背中を叩かれて、やっと我に返った。

「……ッうん!見に来てよ、絶対勝つつもり!気合い十分!」
今日は親善試合があるからってことで、クラスの準備は免除してもらってる。

「相手って強いのか?」

「うん、強いよ。梟谷って、今年の春高予選残ってる。」

「へー、マジか。」
クラスの男子の輪の中で、だけど後ろで女子と話してる三日月のことばかりが気になる。

ドキドキ、する。
本当にそう、言葉の通りだなってヤケにリアルに実感。

心臓の音が、いつもより大きくて。
三日月の声に、顔に、ドキンと胸が跳ね上がって落ち着かない。

こんなに心拍数上がってたら、試合中にバテちゃいそうだなとちょっと苦笑い。


「ねえ、古森。」

「あ、うん……!」
ほら、話しかけられたらもうダメ。
すんごいバクバクいってる。

めちゃくちゃ緊張して、だけど顔は笑っちゃうんだからちぐはぐだ。
いつも普通に話してるはずなのにさ、今は三日月の少しの仕草だって気になる。

試合に誘ったの、どう思った?
俺が三日月のこと好きだって、もしかして気づいてる?

朝のLINEって、期待していいヤツ?
たとえばさ、ちょっとは脈あったりとか……するのかな。

「試合、クラスのみんなと一緒にいくね。」

「お、おう。待ってる、うん待ってる……!」

「えー、緊張してる?」

「してないって、試合って慣れてるし。」
仲のいいクラスメイト、俺の秘かな片思い。
だけど、それだってもう終わりだ。

フられたら気まずくなるかもだし、だけどもし付き合えたとしたら……三日月が俺の彼女になってくれたりしたら!ヤバイ、それって最高に楽しいじゃん!

「あ、爪塗ってんだ。」
カラフルにペイントされたネイル、それに気がついた。

「そう、衣装に合わせてるんだー。」

「そうだ、何着るの?てか、俺も着るんだよね?!」
三日月が笑って、

「見る?写真。」

「見る見る!」
ポケットから取り出したスマホ。

「ね、これ。可愛いでしょ。」

「アッハハ、すっげ目立つ!ちょーいいじゃん!」
1ヶ月かけて準備したんだっていうクラス全員の衣装。
昨日撮ったんだっていう準備係の集合写真、ハロウィンらしくみんなバラバラの衣装だけど、中でも三日月のソレは目立っていて俺も笑った。

「ちなみに古森のはコレー。頑張ったんだから、明日ちゃんと着てよね。」

「えー、てかマジで?!俺、これ?!冗談だよね?!」
楽しそうに肩を揺らす三日月に、少しずつ緊張が解けていく。

「古森、背高いし似合うじゃん。」

「えー、本気で言ってんのォ?!」

「あはは。いーじゃん、実は乗り気でしょ?」
いいなあって思う、こういうの。
笑った顔が一番好き、遠慮なしに大きく口をあけてさ、黙ってるとちょっと澄まして見えるから余計にギャップがあるっていうか。

「はあ、もう……三日月に言われたら断れないけど。」
駆け引き上手でちょっと強引なとこなんかも好きだったりするし、話してると楽しいんだ。

一緒にいたら楽しくて、だけどその分欲張りになる。
もっと近づきたいなとか、俺だけのものになったらいいのにとか。

佐久早に言われたからってわけじゃなくてさ、やっぱり言わなきゃ。
自分の気持ち、本当の気持ち、ちゃんと伝えなきゃフェアじゃないよね。


「頑張ってね、いい場所とって応援するから。」

「そだな、頑張るよ!」

緊張一色だった気持ちが、いつの間にか決心に変わってる。
いいとこ見せたいよなって思うし、どうせなら勝ってからビシッと決めたいよな。

確かに強敵だけど、俺たちだって強い。
いつも通り、練習通りにやれば、必ず結果はついてくる。

それを──三日月に見てて欲しい。


「絶対勝つからさ、見ててよ。」

「ファイト!井闥山!」
三日月の言葉に気持ちはぐっと高まって、まるで公式戦みたいに引き締まった気持ちになっていた。


その試合まで、あともう少しという時間。

まあ、なんとなくこうなる気はしてたんだけど──


「ったく、佐久早のやつ……!」

相手校に挨拶あるから早めに集合って言われてた。
だけど、もうすぐ梟谷来ちゃうじゃんって時間になっても佐久早は体育館に現れない。

「すいません、俺探して来ます!」
集合時刻まであと10分、先輩まで揃ってるっていうのに一体どこにいるのかな。

うちのエーススパイカーは、とにかく手のかかるヤツだ。
神経質で潔癖症、人の好き嫌いは激しいし、おまけに気分にムラがある。

いざコートに立てば頼りになるエースだけど、それ以外がとにかく厄介。
同じ学年の俺は、いつの間にか「佐久早係」みたいな立ち位置になってて、自分でも疑問に感じるより前にそう振る舞ってしまうのだから我ながら可笑しい。

大会の人混みだってイヤがる佐久早のことだから、文化祭なんていったら当然余計に不機嫌になるに決まってる。
だから、こうなるだろうとは正直予想してた。

「ったく」とは言いながら、内心では「予想通りすぎだよ」なんてちょっと面白く思ったりしながら、部員たちの輪を離れた。

その時、

「あれッ、三日月なにしてんのー?」
体育館から顔を出したすぐそこで、三日月と出くわした。

「古森!」
その場所に三日月がいることに驚いた俺だけど、三日月の方はそうでもなかったみたいで、変わらない笑顔を俺に向けた。

三日月と一緒に、見慣れない制服の一団。
よく知ったユニフォーム姿でないせいで、一瞬反応が遅れた。

「なになに、もしかして梟谷に知り合いいんの?」
だけど、それは紛れもない梟谷バレー部の面々。
ますます驚いて目を見張った俺に、

「うん、同中。ね、赤葦!」
三日月が背中を振り返る。

「赤葦京治です、よろしくお願いします。」

赤葦京治──エーススパイカーのボクトさんを支える梟谷のセッター。
三日月が視線を送る相手が彼であることに、三度目の驚き。

驚き?ううん、動揺してたのかも。
だって、三日月が梟谷の赤葦くんと同じ中学だったなんて聞いたことなかったし、しかもさ……ここまで案内してたってことの意味、思い当たった悪い予想に思考が揺さぶられる。

「マジかあ、赤葦くんて三日月と同中なんだ。あ、俺!古森元也。同い年だよね、よろしく!」
心の動きを誤魔化すみたいに、笑顔をつくって話しかけた。
赤葦くんの表情は変わらなくて、「ああ、俺を見ても何も感じないのかな」ってそのことになぜか心臓がギリリと痛い。

なんだろう、これ。
なんでかな。

だけど、やっぱり俺──動揺してるかも。

「おー、古森くんじゃん!ホンモノだ、ホンモノ!」
表情を変えない赤葦くんの横で、満面の笑顔で主将のボクトさんが俺に向かって手を差し出した。

「ボクトさん!今日はよろしくお願いします!」
エースの貫禄っていうのかな、佐久早から感じるのとはまた違う迫力がある。
明るくてエネルギッシュ、主将でありながらムードメイカーでもあるその人の笑顔に吊られて、俺の口角も一段上がる。

ぐっと手を握られるとそれだけで、ボクトさんの気迫が乗り移ったみたいな気持ちになった。

だけど、

「あ、ヤベ。俺、佐久早探しにいかないと!教室にも体育館にもいないんだよね、アイツ。三日月、どっかで見なかった?」
試合前の気分に変わりかけた俺の、目の前のミッション。
それを思い出して、三日月に問いかけた。

俺の言葉に三日月は目を丸くして、「見てない」と予想通りの答え。

「私も一緒に探そっか。」

「マジで?超助かる!あんま人いないとことか、軽く見てみてもらえる?」

「オッケー。見かけたら古森にLINEする。」
その三日月が手を振る様子を横目で見てた。
赤葦くんに向かって、手を振る三日月を。

「つーか、まだ制服?」

「うん、私当番夕方からだし。」

「えー、アレ着て応援来いよ!その方が目立つじゃん。」

「あはは、超ヤダ。それより古森も明日ちゃんと着てよー。」

「わかってるけどさあ、アレってどうなの?ヒドくない?」

三日月が笑って、俺も笑う。
だけど、心にかかったモヤを振り払えない。

三日月が赤葦くんと知り合いだった、赤葦くんと体育館に来た。
そのことの意味を探して、悪い方に行きかかる思考を必死で引き戻して。


「三日月、梟谷に知り合いいるなんて知らなかったなあ。」

「え、そうだっけ?」
浮かんだ考えを三日月に「違うよ」って否定して欲しくて、だけど一番聞きたいことが聞けない。

「クラス一緒だったんだよね、2年間かな。だけど、会ったのって卒業式以来かも。」
ほっとして、

「赤葦から連絡来た時、びっくりしちゃった。ウチと試合だって言うんだもん。」
また動揺して、

「うん、梟谷となんてあり得ないもんな。」

「そうなの?」

「そうだよ、春高予選でぶつかる可能性大だし。その前に試合って俺も驚いた。」
三日月と赤葦くんの距離を会話で測ろうなんて、こんなのって格好悪いよな。

だけど、聞けない。
聞きたいことが聞けない、聞きたいから聞けない。

「赤葦くん、うまいよ。レギュラーだしさ。」

「へえ、頑張ってるんだ……。」
そんな三日月の言葉を聞きながら目を伏せてしまった弱気を恥じるけど、だけどやっぱり聞けないままで──。


教室棟の入り口まできて、それで三日月と別れた。

赤葦くんと三日月ってどういう関係?
ただの友達?それとも違うの?

三日月は赤葦くんのこと、どう思ってる?

聞けずじまいの疑問は、俺の中に残ったまま。
それが、大きく膨らんでいくのを必死で抑えようと努力する。

「佐久早!」

「……なに必死な顔してんだよ。」
探し人は案外すぐに見つかって、

「おまえが来ないからだろ!」

「まだあと3分あるじゃん。」

「けど、梟谷だってもう来てんだからさ。」

「ふうん……。」
無表情な黒目が俺を見る。


だけど、

「それだけ?」
顔を覗き込むようにして問いかけられて、肩が跳ねた。

「ど、どういう意味……。」
別に隠すことじゃない。
三日月が梟谷の赤葦くんと知り合いで、それで結構親しそうだったからって別に隠さなきゃいけない理由なんてない。

でも、言いたくない。
なんで?なんでだろう。

だけど、言ったら──不安を口にしたら、それが現実になってしまう気がして、口に出せない。


「フラれたからって、試合の手は抜くなよな。」

「はあッ?!」
佐久早の言葉に、思わず大きな声が出てしまって慌てる。

「ふ、フラれてないし!」

「そうなの?」

「そうだよ!」
フラれてないんてない、終わってない。
まだ告白だってしてない、それなのに終われない──!

だけど、不安なのも事実で、それを佐久早に気取られたことに焦って、戸惑って、それで、

「まだ……フラれるって決まったわけじゃない……。」
今度は声が小さくなる。


こんな気持ちって初めてだな。
三日月のことを考える時、俺はいつだって楽しかった。

友達の三日月だって楽しいし、いつか付き合えたらなんて想像したらそれだけで浮かれた。
だけど今は不安で、自信なんかなくなりそうで、そんな自分に戸惑ってる。

「あ、やべ……!」
三日月にLINEしなきゃって思い出して、「佐久早見つかったよ」ってメッセージを送った。
すぐに返ってきたスタンプに、複雑に揺れる気持ち。

嬉しいのに、不安だ。
不安だけど、やっぱり嬉しい。
行ったり来たりの気持ちが、胸を揺さぶって苦しい。

「おい。」
暗くなりかけた視界、

「おい、古森。」
呼ばれていることに気づいて顔をあげれば、いつの間にかコートの上の顔になった佐久早が俺を見てた。

「不甲斐ないプレーしたら許さない。そんなんならフラれたって当然だ。」

「ッ!だから、フラれてないってば……!」


その時、

集合時間ちょうどの体育館。
踏み入れた板張りの床で、シューズが音を立てる。

まるで待ちきれないとでもいうように、翼を広げたフクロウ。

床を蹴ったボクトさんの手のひらにドンピシャで上がったボール、それが勢いよく床に叩きつけられてバウンドする。
それを──見た。

「……そうだね。」
派手な光景とは裏腹に、心は静けさを取り戻して。

そうだね、俺の戦場はここだ。

「負けるわけにはいかない……よね。」

絶対に勝つ。
コートに立てば、目の前にあるのはいつだってそれだけだ。
さっきまでの弱気も消えた──コートの上ならいつだって、俺は強気だ。

不安、焦り、戸惑い。
そうだよね、そんなんじゃあフラれたって当然だ。

だけど、今の俺は違う。

勝つよ、三日月。
だから、見てて。

試合に勝って、笑ってみせる。
それで、言うんだ。

ずっと思ってきたこと、ずっと大事にしてきた気持ち。
三日月といると楽しいよ、三日月と話せると嬉しいし、毎日頑張れる。

俺にとってさ、三日月ってそういう存在なんだ。

だから、三日月も笑ってよ。
俺の隣で、いつもみたいに笑ってよ。


気がつけば、昨日までより前向きな気分。
不思議だよね、だけど今の俺はもうさっきまでの俺じゃない。

「行こう、佐久早。」

「いい顔じゃん」と笑った相棒に、俺も笑った。
後はただ、目の前のボールに向かうだけ。

相手が誰だってさ、俺たちは負けないよ。


見ててよ、三日月。
三日月が見ていてくれるなら、俺はもっと頑張れるから。


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