■恋の果実 1
大学1年の終わり。
学年最後の試験まであと少しというその日、私は彼に出会った。
多分、俗に言う「よくある出会い」。
試験前、珍しく開始10分前にやってきた講義室。
後ろから二番目の席に腰かけた時、携帯電話が震えた。
『ごめん、寝坊!代返よろ!!!』
ってさ、もー11時なんだけど。
一緒の講義を取ってる友達からのメールに呆れたけど、人のことは言えない。
大学に慣れた最近は、合コンやら何やらで私も夜が遅い。
12年間も勉強したんだから、やっと入った志望大学でくらいハメを外させてほしいもの。
一人暮らしの気ままさも手伝って、最近はまぁ……そんな感じ。
(さすがに試験前くらいはちゃんと出るけどね。)
大講堂に次ぐ広さの教室。
各学部の学生が受講するマンモスクラスだけど、先生は結構キッチリしている。
とりあえず出欠の紙がまわってくるまではいなきゃなと頬杖をついた時だった。
「隣、いい?」
「え、あ……。」
声をかけられて顔をあげる。
そこにあったのは、見たことのない男の子の立ち姿。
色素の薄い髪、少し太めの眉の下、グレーがかった瞳がこちらを見下ろしていた。
「うん……えっと、どうぞ。」
三分の二が埋まった教室。
私はお尻を上げて、2つ隣の席にズレた。
「サンキュ。」
ストン、と彼が腰を下ろしたところ───私のすぐ隣。
「えッ。」
いやいや、普通1コあてけ座るでしょ、そのために2コずれたんだから!
そう思うのだけど、
「あ、もしかして友達来る?」
彼は気にかける様子もなく、ふるふると首を振った私の横でノートを広げた。
「いつもは同じ学部のヤツと一緒なんだけどさ、今日代返頼まれて。寝坊だって。」
「あ、私も。」
「マジか!」
それが二人の出会い。
「学部、どこ?」
「学年、一緒かな。」
「ここの先生キビシーよな。」
そんな会話をいくつか交わした後、教授が姿を見せたのに気付いた彼が慌てたように言った。
「あ!俺、菅原孝支。ごめん、自己紹介遅れた!」
日本中の大学で、きっといくつも繰り返されている平凡な出会い。
だけど、それは───私にとって特別なものになった。
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