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■魔法じゃなくていい

『インターハイ優勝 男子バレーボール部』

──校舎の正面に掲げられた段幕を見上げた。


「おー、すごいじゃん!つーかめっちゃデカっ!」
全国大会の優勝。
大変誇らしい結果だが、こうして堂々とお祝いされると尚更に嬉しい気持ちになる。

「すげーじゃん、男バレ!見たよ!」

「なー、全国制覇!びっくりしたー!」
朝練の後で向かった教室では、クラスメイトに揉みくちゃにされた。
試合の疲れなんか吹っ飛ぶくらいにさ、こういうのって実際嬉しい。

で、

「見たよー、古森!すごいね!」
なんて、三日月に言ってもらっちゃったりしたらさ!
いやいや、嬉しいって言葉じゃ足りないかもしんない。

「優勝!でしょ。すごいんだね、古森って。」

「うん、まあなー。」
うちの学校のバレー部は全国でも知られた強豪だけど、そうはいっても優勝するっていうのは並大抵のことじゃない。

練習だってキツイし、レギュラー争いだって勿論熾烈だ。
それを勝ち抜いてのスタメン入りで全国制覇、これなら三日月に自慢したって何の文句もないはず。

「今度、練習とか見に行ってみよっかな。」

「え、マジで!」
ほらほら、こうですよ。
期待通り、いや期待以上ってやつ!

部活頑張ってて良かったあ……!

ぐっと上がった注目度、今までなら「部活、頑張ってね」ってくらいだった三日月もこの関心。
これってもしかしてチャンスじゃないのかななんてちょっと思ってる。


そう、部活部活の毎日。
学生だから勉強もあるけど、部活がやっぱり忙しい。

だけど、そんな毎日の中だって恋とかしちゃうのが高校生ってものでしょう!

去年から同じクラス、ぶっちゃけ初めからいいなって思ってた。
ちょっと目立つ感じの雰囲気とか、だけど気取ってないとことか、下らないことでも大抵は笑ってくれて、いつも賑やか。

仲はいいし、よく話すほう。
だけど、「それ以上」ってどうしたらいい?

「告白」なんてするには、近すぎる距離。
だけど、もっと近づきたい。


だから、

「おー、見に来たらいいじゃん!てか、練習試合とかさ、結構応援盛り上がるよ。」
三日月がバレーに関心もってくれるのって、すっごいチャンスかもって思うじゃん。

話すことだって増えるし、いやホラさ、もしかして「古森かっこいー!」とか俺の活躍見てなっちゃったりするかもなわけで!

期待する、俄然期待する。
ドキドキ、わくわく、やべえな!もしかして付き合うとかなったらどうしよ……!

なんて、思ってたわけ。


──それがさあ、

「なんなの、おまえ。」

「……別になんでもないけど。」
はあ、と大きくため息をついた俺に、同じくため息の男。

だけど、ため息の種類が違う。
いかにも「呆れてます」って感じのそれが聞こえて、俺は恨みがましく佐久早を見返した。


「佐久早のどこがいいのかとか、全然わかんないし。」

「はあ?」
もう一度ため息をついたら、今度は苛立った声が返ってきた。

「だってさあ、なんで佐久早がモテてんの。」

突然のバレー部ブーム。
練習を見に来るギャラリーは倍増して、女の子の黄色い声援も増えた。

──主に、佐久早に。

「俺だってわかんねえよ、そんなの。」
あからさまに面倒くさそうな佐久早だけど、あの日を境にコイツを取り巻く環境が一変したのは明らかだ。

ファンですなんて女の子が現れて、廊下を歩けばヒソヒソと女子の囁き声。
この前はついに知らない下級生に告白されたって言ってた。

「絶対おかしい。おまえがどーいうヤツかって、俺、ビラでも蒔こうかな。」

「……あっそ。」
愛想は悪いし態度も悪い、おまけに潔癖症のネガティブ野郎。
それなのに、いつの間にかコイツには「全国屈指のエース」で「背が高くて格好いい」なんてとんでもない少女漫画設定が付与されてしまっているんだから、女の子ってわからない。

当の本人はそれが煩わしいだけのようだけど、同じ男の俺からしたら羨ましい限り──いや、いっそ妬ましい!

って、思ってしまったのは、別にナゾの佐久早ブームが気に入らないからってだけじゃない。


「なんで三日月まで……。」

「三日月って誰?」
そうだよそうだよ、おまえはいつだって人の話なんてロクに聞いてない。
こんなヤツのどこがいいのかって、本当にわからない。

「三日月ゆいって、俺よく話してるのに……覚えてないの。」

「ふうん……。」
別にいい。
人の話を聞いてないのはむかつくけど、だけど「あの子可愛いよね」なんて言われるよりはやっぱりいい。

だって、そうだ。


今日の放課後──

『練習、見に行ったよ。』
って、三日月に言われて、浮かれた。
見に来てもらったのなんて初めてだし、これはいよいよ俺の格好いいとこに気づいちゃったんじゃない?!なんて期待して。

それなのに、

『マジか、どうだった?』

『うん、バレーって初めて見たけど、すごい迫力あるね。練習試合あったら見に行ってみたいかも。』
テンションは急上昇。

だけど、その後急降下──、

『なんかさ、佐久早くんって人?すごいんだね、みんな格好いいとか言ってたけどちょっとわかったかも。』

──って!嘘だろおおおおお?!!
なんで?なんで佐久早?!

俺のクラスメイトなのに!俺の好きな子なのに!
ていうか、俺のこと見に来たんじゃないの?!


……こんなことなら、練習見に来てとか言うんじゃなかった。
あの瞬間から俺の敵になった男は、そこでようやく合点がいったらしく、

「あ、」

「なに?」

「古森の好きな子だ。」

「すッ、好きとか……!」
遠慮のないもの言いに、思わず顔が熱くなる。

「違うの?」

「ち、違わないけども!」
だけど、そんなにハッキリ言うなっての。
照れるじゃん、つーか恥ずかしいし、好きとかそんなんドキドキするだろ。


「はー、まあいいや。別に佐久早のこと好きだって言ってたわけじゃないし。」
もうすぐ部活も始まるし、切り替え切り替え。
だけど、もしギャラリーに三日月がいたらヘコむかも。

そう思いながら部室を出ようとした背中で、

「え。古森の好きな子って、俺のこと好きなの?」
佐久早がそんなことを言うもんだから、今度こそ慌てた。


「んなッ!だから、違うって言っただろ……!」

「そうなの?」

「そうだよ!別に好きなんて一言も言ってないし!ちょっと、その……格好いいかも……的な……ことを、言ってたかも……だけど……。」
言いながら、自分で落ち込んだ。

別に「好き」なんて言ってない。
よくよく思い出したら、「格好いい」とも多分言ってない。

俺じゃなくって佐久早を見てた、それだけ。
だけど、それが俺には重要で、なんていうかすごい……魂でも抜かれた気分っていうか──


「ふーん、どんな子だろ。明日古森んとこの教室に見に行ってもいい?」

「はあッ?!ふっざけんな!」

「あはは。古森、すげー顔。」

「おいこら、もー!シャレになんないんだからな、本当に!」

珍しくふざけた様子の佐久早が俺を見て笑って、

「だって、面白そうじゃん。」
なんて言うものだから、またため息だ。


面白くなんかない、まったくない。
むしろ不安しかない。

バレーやってて良かったなって思ったのも束の間、今度はバレーが邪魔をする。
自分で自分が見えなくなって、三日月の言葉の意味とかそういうのが全部、自分の頭じゃ整理できなくなってる。


なあ、三日月。
佐久早のこと、好きとかじゃないよな?
気になるとか思ってたら、俺すげーショックだし。

お願いだから、それだけは止めて。


俺を見てよ。
それで、俺のいいとこ探してみて。

そんなに悪くないはずだしさ、結構いいとこだってあるんだぞ。
格好いいとこだってちゃんと……わかんないけど、多分ある!


ずっと好きだったんだ。
友達じゃもう我慢できないし、もちろん佐久早になんか渡したくない。

だから、ねえ……お願い、三日月。


「佐久早、今日自主練でスパイク付き合って。」

「あー、別にいいけど。」

「俺が打つ方な!」

「はあ?なんでだよ、必要ないだろ。」

「いや、ちょっとおまえにボールぶち込みたい気分だからさ、頼むわ。」

笑えないんだけど、って佐久早が言うから「本気だぞ」って脅してやった。


「物騒なこと言うなよ、こえーな。」

「俺はおまえがモテてる世の中の方が怖いよ。」

こんなのみんな冗談になればいい。
だけど、それって三日月次第──それとも、俺次第?


頑張れ、頑張らなきゃ、頑張らねば。

近くて遠い三日月までの距離、どうしたら──俺はそれを縮められる?


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