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□明日の君に会いたくて 5

自分が間抜けだってことは、もう十分承知してた。
だけど、元カノに告られたことで、それはいよいよ自己嫌悪に変わった。


『会ったりとかさ、やっぱりもうできねえよ。』
電話をかけて言った俺に、その子は「イヤ」と泣いて言った。
女の子に泣かれるのなんか嫌に決まってる、だけど覚悟は出来ていた。

『瀬見くんが好きなの……ッ!今でも好き、ずっと好きだった……だから、会えないなんて言わないで……!』
彼女が俺を頼った意味を今更みたいに自覚して、

──嫉妬しちゃうし不安になる。
ゆいの言葉が、頭の中でリフレインした。

バカだな、俺。
本当バカだ。

余裕なんてないくせに、格好つけてばかり。
いいヤツぶって誰も彼も傷つけて、本当にバカだ。

『ごめんな、無理だよ……。』

誰にでも優しくなんてできない。
誠実でいたい、優しくしたい、だけどそれはゆいだけでいい。

泣いてるその子を振り切るみたいにして、電話を切った。
どっと疲れが襲ってきて、だけどまた違う気持ちが沸いてくる。


俺、間違ってばっかりだ。
優しくなんかないし、強くもない。
つまづいて、迷って、行き先だってロクにわからなくて、頼りないばかり。

それでも、ゆいが好きだから。
もう一度やり直したいって思うから。

きっと俺は変わるし、強くなる。
今度こそゆいのこと、大事にするよ。


だから──

「……ゆい?」

電話越し、『英太』と俺を呼んだ声。
久しぶりに聞いたゆいの声に、無償に泣きたい気分になる。

「話したいんだ、俺。もう一回、ちゃんとゆいと話したい。」
どうかどこにも行かないで。
ゆいの気持ちが離れちまう前に、もう一度だけチャンスが欲しい。

きっと変わるんだって伝えるから。
好きだから変われるんだって、わかって欲しいから。


「うん」と言ってくれたゆいと、久しぶりの二人きり。
学食でメシを食って、それで「この前また隼人がケータイなくしてさ」なんて話したらゆいが笑ってくれた。

なんとなく、前みたいな気分。
毎日こうやって過してた、それが戻ってきたみたいで嬉しい。

「工が大騒ぎするからさ、なんか余計大事になって。」

「ねえ、それで英太がまた出しゃばったんでしょ。」

「出しゃばってねえよ!」

「うそ、だって目に浮かぶもん。」
細くなった顎のライン、それに髪も伸びた。
だけど、いつも塗ってるグロスはそのままの色。

「見つかったの?」

「それがさあ、どこにあったと思うよ?」
泣きたいくらい苦しい気持ちと浮き足だった感情が交互に押し寄せて、心臓なんかバクバクいってる。
付き合いはじめた頃みたいにドキドキして、やっぱり可愛いよななんて思うと顔が火照るのを止められなかった。

「えー、部室?」

「ハズレ。」

「じゃあ、教室!」
楽しそうに相づちを打って、俺の好きなあの顔で笑うゆい。

「寮の部屋にあったんだよ、それが。アイツさあ、丸一日携帯ないのに気づいてなかったんだってよ。」

「なにそれ、ウケる。」
またこうやって、ゆいと笑い合いたい。
二人でメシ食って、下らない話して、それで今度は俺の泣き言なんかも聞いて欲しい。

向きあって話していると、やっぱりやり直せるんじゃないかって思えてくる。
それで、もしもう一度ゆいと付き合えたら──優しいなんて言ってもらえなくていい、格好つけるものももう止める。

本当の俺を知って欲しいし、ゆいの素顔だって見たい。
すれ違ったら話し合って、何度だってやり直して、心の奥からまっすぐに向き合えるようなそんな二人になれたらいい。


「この後、ちょっといいか。」
息を吸い込んだ俺に、ゆいの肩が小さく揺れる。

「……うん。」
はっきり言えば緊張する。
ゆいに告った時よりももっと、緊張する。

だけど言うんだって、決めてるから。


二人きりになれる場所を探して、廊下を歩いていく。
たどり着いたのは中庭、日当たりがよくて気持ちいいけど案外使うヤツがいない穴場的な場所だ。

天童とゆいを見たのもここだったなって思ったらズキリと胸が軋んだけど、だけど今は俺のことだろ……!


「ええと、」
二人向き合って立って、まるで絵に描いたような告白のポーズ。
今の俺にはちょうどいい。
このくらいの覚悟が、俺には必要だ。


「俺、元カノとはもう会わない。電話もしないって、言ったよ。」
うつむき加減のゆい。
それが余計に緊張を増して、だけど俺は最初の言葉を告げた。

「ゆいを不安にさせてたこと、傷つけてたことわかってなかった。だけど、今はちゃんとわかってるつもりだ。」
たくさん考えたし、さんざん自己嫌悪にも陥った。
ぐるぐると迷路みたいな回り道、だけどちゃんとたどり着いた。

「俺が間違ってたんだ……!」
ゆいは一つも悪くない、俺がいけなかったんだって今は思う。

「今更だってゆいは思うかもしれねーけど、俺……やっぱりゆいが好きなんだ。ゆいのことしか、好きじゃない。」

「英太……。」

好きな子を泣かせてまで、いいヤツでなんていたくない。
ゆいのことだけ大事にしたい。
今ならはっきり、そう思えるよ。

「俺は……ゆいが期待するみたいな優しい男じゃない。」
本当の俺は、独りよがりの格好つけ。
それでもゆいのためなら、俺はきっと強くなれるから──


「だけど、ゆいのことだけは大事にする。もしかしてまた泣かせることあるかもしれないけど、その時はちゃんと話し合うし、それにもう……絶対ゆいの手を放したりしない。」

だから、

「だから、もう一回!俺にチャンス、くれよ……!」

ごめんな、ゆい。
本当にごめん。
傷つけてごめん、泣かせてごめん、それでまた──勝手なことばっか言ってごめん。

それでも欲しいんだ、どうしても手放したくないんだ。
だから、もう一回俺を見て、あと一回だけでいいから、チャンスが欲しい……!


「ゆいのことが好きだ。だから俺と……また付き合ってください!」

もう一度、笑って。
もう一度、手をつなぎたい。

もう一度、俺だけの彼女になって──。


周回遅れの告白、今更すぎるって思う気持ちならある。
だけど、後悔ならフラれた後でいい。


今はただ、この気持ちを伝えたくて。

ごめん、ありがとう、好きだよ。
ゆいが好きだ、こんなにも。


それだけを今、伝えたくて。


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