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□ハッピーレイン,ブルーサンシャイン 6

ぶんぶんと尻尾を振り回す五色を、部室で見た。


あっそ。
そう思って、だけどやっぱりむかついた。

なんでかな?
そう考えて、まー俺もともと五色のことあんま好きじゃねえし。
そう思うことにした。

「牛島さんを超えてみせます!」とかどの口が言ってんだよって感じだし、上がったり下がったり気分の変化が大きくて、あの大声と同じくらい見てるだけで喧しい。
俺からしたらさ、おまえなんか全然恵まれてるんだよ。
推薦でポンと白鳥沢入って、一年からレギュラーで牛島さんと同じポジションとか、それだけで十分気にくわない。

だから、また喧しいなって思った。
それだけ。


「おまえさー、なんでまたそういう顔すんの?」

「は?」
部室を出たところで、太一にそう言われた。

「意味わかんねえ、どんな顔だよ。」

「はあ……。」

「何、勝手にため息ついてんだよ。」

「まあ、いいや。」
自分から言い出したくせに、すぐにこうやって引っ込めるからむかつく。

「なんだよ、言えよ。」

「あー、うん。もう別にいいって。」
だけど、これ。
もしかしたら太一の方が、俺のこと良くわかってたのかもしれない。

さすが雑食ブロッカーってやつ?
天童さんといいさ、ウチのブロッカーってどうなってんだよって思うよ。



──三日月が俺を訪ねてのは、次の日の教室。

「白布くん。」
休み時間の教室にひょっこりと顔を出したそいつに、なんとなくイライラしながら席を立った。

「なに、次移動なんだけど。」

「あー、ごめん。じゃあ、コレ後で目通しておいて。」
手渡されたのは、夏合宿の日程のプリント。

「監督とコーチからメニュー表。一年生のセッターのとこ、問題なさそうか見て意見あったら言って。」
そう言って、「じゃあね」と出て行ってしまったから言えなかった。

「なんで俺?」とか「瀬見さんに聞けよ」とか──頭に浮かんだもう一つ、「別のこと」。
だけど、聞けなかった。


それに、どうしろっていうんだよな。
そんなの知って、どうすんの。

「花火、五色と行くの?」なんて、なんで俺が気にしてんだよ。
本当、意味わかんねー。
自分で自分のことがわからなくなる、こういうのって一番イヤだ。


だけど、そんな日に限ってこういうことになる。
答えを出せないままで、三日月に会ったのはその日の放課後。

なんなんだよ、クソ。
タイミング悪すぎだし、コイツが何考えてるのかも全然わかんないし。


「白布くん、お疲れ。」
暢気な声でそう言って、

「プリント見てくれた?」
部室に向かう俺を、三日月は追いかけてきた。

「……見たけど、なんで俺?」

「え、だって白布くんがスタメンなんだし。」

「だけど、瀬見さんがいるだろ。」

「あ、うん。実はもう聞いたんだ。」

「……ふうん。」

小さなことだ。
むかつく方がどうかしてる。

確かにスタメンは俺だけど、瀬見さんだってベンチ入りのメンバーだし、何より3年生。
だから、三日月が瀬見さんに確認を取ってから俺に聞きに来たっていうのは普通のことなんだと思う。
それを言われなかったからって、別に怒るほどのことじゃない。

普段の俺だったら、それほど気にしなかったかもしれない。
だけど、今日は違った。

なんでなのかなんてわからないクセに、「もう聞いた」ってその言葉にイラッとして。

「なんかおまえってさ、いかにも自分は気が利いてますみたいなとこあるよな。」

「え……。」
言わなくてもいいような嫌味を、三日月に向けていた。

「それ、どういう意味……?」
すぐ横を歩いていた三日月の速度が落ちて、その瞳が俺を見上げた。
そこに浮かんでいた表情に、はっとなる。

だけど、止められなくて、

「別に、そのまんまの意味。五色がレギュラー入りした途端あいつのことばっかメモったりしてさ、そういうの気を利かせてるつもりかもしれないけど、だからアイツが調子乗るんだよ。」

言葉が──あふれ出す。

止めたいのに、止められない。
こういう時のボキャブラリーばかり豊富な自分が、いっそ腹立たしい。

「何それ。いいじゃん、別に調子乗ったって。それで練習頑張れるなら良くない?」
今度はあからさまにむっとした様子の三日月に、売り言葉に買い言葉。

「そういう意味じゃねーよ。」

「じゃあ、何?」

「だから、おまえさ!五色に告られたんじゃねえの?!それっておまえがちょっかい出したからだろって言ってんだよッ!」

「………。」

完全に余計なことだったと思う。
五色が三日月に告白しようが、三日月が誰と付き合おうが俺には関係ない。
それなのに、言ってしまった。

言ってしまって、それから気がついた。
今日一日、それから最近も、ずっとイライラが止まらなかった理由。


三日月が、五色と花火を見にに行くかもしれない。

その事実が──俺をイラつかせてたんだって。



その日の練習は、何度気合いを入れ直しても上手くいかなかった。
数えられないくらい監督に怒られたし、スパイカーには散々迷惑をかけた。

合宿近いのに何やってんだよって思うのに、どう頑張っても修正できない。


だけど、もう一つ。
俺には修正しなきゃいけないことがある。

「三日月、ちょっと。」

「あ、」

話したくないなんて言ってられない。

だって、俺が悪い。
全部、全部俺が悪い。

「悪い。この後、話せるか。」
気まずい空気でいっぱいだけど、三日月に向かってまっすぐ告げれば、「うん」と小さな頷きが返ってきた。

部室で着替えを済ませる間も、本当は悶々としてた。
「じゃあ、お先な!」と太一に背中を叩かれて、

「ッて!」

「でも、気合い入っただろ。」

「……まーな。」
なんて、それが合図。
いざ処刑台へって気分。

だって、俺ってイヤなヤツだろ。
せっかく入部してくれたのに、ワケもなく毛嫌いしてた頃。
ようやくマトモに話せたってからかう位しかできなくて、それでコレ。

三日月からしたら天敵みたいなものかもしれない俺が、これからその相手に告ろうなんて多分正気の沙汰じゃない。

だけど、他にないんだ。
あんな態度取っちゃってごめんって、他に説明できない。

だったら、正直に言ってやる。
正直に言って、フラれてやる。

失恋なんかどうってことないんだって、太一に叩かれた背中をぐっと伸ばした。


ぞろぞろと一年が入ってくる頃に部室を出れば、その後ろに三日月の姿。
帰り支度を調えて、俺を待っていた。


「駅まで送る。」

「え、あの……うん。」

うわ、いきなり気まずいな。
だけど、もう後戻りなんてできない──。



「まだ明るいね。」

「……そうだな。」
夏の日は長い、前に三日月を送った時間は暗かったけど今日はまだ夕日の明るさがある。

「終業式ももうすぐだね。」
そんな風に三日月が話題を探している様子に、また胸が苦しくなる。

本当俺ってイヤなヤツ。
ていうか、この上告白なんかしたら、どんだけ自分勝手だよって余計嫌われるかもしれないな。

だけど、言わなくちゃ。


「……三日月、あのさ。」

ぐ、と両手で握りしめた拳。


「さっき、ていうか放課後の……ごめんな。」

「あ、うん……ええと。いいよ、大丈夫。」
隣を歩く三日月は俯いたままで、ぽつりと小さく返事を返す。
そのことにまた怯みそうになって、握った拳に力を込めた。


「けどさ、」

「そういう風に見えることもあるんだなって、反省……したし。」
言いかけた俺に、三日月が顔を上げた。

その顔を見た瞬間、すべきことは決まってた。

「違う。」

「え、」

「違う。俺、本当はあんな風に思ってない。おまえ良くやってるし、ぶっちゃけスゲー助かってるよ!」
驚いたみたいに見開かれる瞳。
だけど、三日月の言葉を待たずに俺はそのまま喋った。

「先輩たちも寮でそう言ってるし、一年なんてまるで志気が違うよ。それにさ、俺も……いや、ぶっちゃけ最初はなんか気取った感じの女だなとか思ってたけど、でも今は……三日月に感謝、して、るから……。」

驚きでいっぱいだった瞳が、もう一段大きく見開かれて、

「え、待って待って。」

「なに?」

「いや、白布くん。私のこと!」
告る前に気づかれたのかって思ったけど、それは違ったらしい。

「気取った女とか!そんな風に思ってたの?!」

「ッ、そこかよ!」

「いや、大事だよ。何それ、むかつく!」

ああ、だけどさ。
おまえって本当にわかんねーヤツだよな。

さっきまでしゅんとしてたクセに急に怒り出して、だけどそれが心地いいんだ。


「昔のことだろ。」

「そういう問題じゃないよ、訂正して!」

「うるせえな、今は違うって言っただろ!」

「そうじゃなくって……!」

三日月が怒ってるのにさ、だけどなんでかすごい楽しい気がする。
楽しいような、なんとなく焦るような不思議な気持ち。

今なら、言える気がした。


「俺、おまえのこと好きなんだよ。」

「ごめんな」って言った。
最初の頃もそうだけど、今日のが一番まずかった。

だって、あんなの完全な嫉妬だ。
俺だって三日月が好きなのに、五色に出し抜かれるんじゃねえかって嫉妬したんだ。
焦って、むかついて、イライラして、とにかく俺がバカだった。


「だから、おまえが五色と花火見に行くかもって聞いてずっとイラついてた。八つ当たりした、ごめん……。」

「し、らぶくん……。」

見たことない顔をした三日月。
駅はもうすぐそこで、送り届けてしまえば、俺は寮に帰るだけ。

だけど、一緒にいたいな。
それで、五色には渡したくない。


「行くなよ、花火。それで、俺のこと考えてみて。」


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