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□ハッピーレイン,ブルーサンシャイン 4

7月と言えば、何か。


決まってる!
夏休みのはじめにある、大イベント──花火大会!

子供の頃は、家族で一緒に見に行った。
中学の時は、クラスのやつらとか部活のみんなで。
高校生になった今年は──もしかして女の子と行けたらいいなあなんて思ってた。

だけど、今はもう思ってない。
「女の子」と行きたいんじゃない、俺はゆいさんと行きたいんだって思うから。


高校に入ってすぐ、好きな人ができた。
一つ年上の先輩、バレー部のマネージャー。
いつも優しくて、笑顔の明るいその人に、俺は恋をしている。


だけど、
だけどだけどだけど!

その前にあるんだよ!大イベントの前にもう一つイベントが!


「工ー、その点数はさすがにまずいんじゃナイ?」

「ぐッ、ううう……て、天童さん!助けてください!」
英語の時間に行われた小テスト、10点満点のそれに「2」と赤文字で記されている。

「そんなこと言われてもねえ。」

「でも!天童さんはいつも点数いいって聞きました!」
このままじゃ期末テストは赤点確実、そしたら夏合宿の参加が遅れちゃう。
その説明を聞いてから、俺はこうして天童さんに必死で頼んでいるんだけど──

「まあ、俺の場合はヤマ?がいつもバッチシ当たっちゃうからネ。」
3年生みんなが頼りにしているという天童さんの山勘を頼ったけど、「学年が違うから無理ダヨ」と一蹴されて、

「賢二郎に教えてもらったら?頭いいし、2年だから去年の試験内容も覚えてるでしょ。」

「は?絶対イヤです。」
白布さんには即断で拒否された。

絶望!絶望しかない!
だって、このままじゃ合宿には遅れちゃうし、それに!花火大会だって!花火大会だって!格好よくゆいさんを誘えない……!


「うう、川西さんッ!」

「ええ、俺ぇ?」
寮の談話室で飛びついた川西さんは、「降参」のポーズ。

「いや、俺は人に教えられるほど頭よくねーよ。」

それから、

「じゃあ、三日月に教えてもらえば?あいつ頭いいよ、中間も平均85以上って言ってたし。」

「85!!!」
ほとんど幻のような数字に目眩がする。


「う、でも……ゆいさんに教えてもらうなんて、俺の、お、男としてのコケンに関わるというか……。」

「工、よくコケンなんて言葉知ってるね。」

「天童さん!」

だけど、

「まあ、イヤならしょうがねえけど。でも、教えてもらうのと赤点取るのと、どっちが格好悪いのかよく考えてみろよ。」
なんて、瀬見さんにまで説得されてしまっては……

「ゆいさん……。」
俺は、自分のテストが危機的状況にあるということをゆいさんに告白せざるを得なかった。



しょんぼりと頭を下げた俺に、ゆいさんは「遠慮しないで」と笑ってくれた。

「教科書とノート、見せて。」

「う、教科書と……ノートはクラスのヤツに借りてきます!」
なんて、情けない俺。
だけど、背に腹はかえられない。

ゆいさんはノートのコピーと教科書にラインマーカーで印をつけて、それからクラスの人に去年の試験問題を借りてきてくれた。

「ここ、覚えちゃえば大丈夫だから。」

「はい!」

「あと過去問ね、先生一緒だからこの4科目は似てるはずだよ。」

「はい!」

だけど、

「じゃあ、今日から図書館で居残りやろっか。」
そう言われて、首を振った。

「だッ、大丈夫です!これだけしていただけばッ……後は自分で頑張ってみせます!」

どっちが格好悪いのかなんて瀬見さんには言われたけど、やっぱり最後は自分でなんとかしたい。
それが男としての!プライド!そう思うから。


「ええ、本当?ほんとに大丈夫?」

「大丈夫ですッ!」
勢いよく頷いたら、ゆいさんは、

「じゃあ、五色くんを信じてみるか!」
そう言って、「頑張ってね」と手を差し出してくれた。

「えッ、あ!あああ、あの!ちょ、ちょっと待ってください!」
一気に汗が噴き出した手の平を、慌ててスポーツタオルで拭う。


握手、それだけだって奇跡みたい。
だけど、もっと大きな奇跡を起こしたい。

テスト、絶対頑張るぞ!
ゆいさんに褒めてもらえるくらい、絶対いい点数とるんだ!


張り切って寮に帰ってきたら、また天童さんに笑われた。

「どうせなら、何点以上でご褒美くださいとか言っちゃえば良かったジャン。」

「ッ、な!なんで……!」

「そんなの工見てたら、丸わかりダヨー。」

俺のゆいさんへの気持ちは、どうやら天童さんにはすべて見透かされてしまっていたらしい。
恥ずかしい、ものすごく恥ずかしい。


「そ、んなこと!言うわけないじゃないですかッ!」

ご褒美は、確かに魅力的だ。
それにゆいさんだったら、きっと笑って許してくれそうな気がする。

だけど、俺が欲しいものは違うから。
期末試験のご褒美なんかじゃなくって──俺の実力で!

堂々とゆいさんを誘うんだって思ってる。


毎年行ってる夏の花火。
もしそれを、ゆいさんと見られたとしたら──。


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