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■恋の叡智 3 3周年リクエスト作品(詩音様へ)

今、俺には悩みがある。


「それでね。次の世界史、グループワークなんだって。」
学食のテーブル、俺の向かいに三日月。
ようやく見慣れた光景だけど、やっぱりまだ少し緊張するかもしれない。

「どうしようかなあ、テーマ。近代の方が好きなんだけど。」

「ふうん、いいんじゃないの。」
とっくに食べ終えた食器を前に、頬杖をついて俺を見る三日月。
予鈴が鳴るまでいつも三日月はこうしている、一緒にいたいって言われてるみたいでそれが嬉しい。

休み時間なんかでもLINEが来たりして、時々写真も送られて来る。
部活がオフの時は、一緒に帰る。
付き合ってるんだなって感じる瞬間は、たくさんある。


三日月が俺の彼女になった。
はじめは少し誤解もあったけど、だけど「好きかも」と三日月は言ってくれてあの日は手を繋いで駅まで帰った。

でも、悩んでる。

「好きかも」を「好き」にしたい。

また手をつなぎたい。
それから、二人で出かけたい。
後は、できれば──

そこまで考えて、頭を振った。


「どうしたの、佐久早くん。」

「……なんでもない。」

あ、これも悩みの一つ。
「佐久早くん」じゃなくってさ、できたら名前で呼んでほしい。

つーか、俺も「ゆい」って呼びたい。
だって、「三日月」じゃ、他のやつらと変わらないじゃん。


こんなにたくさんの願望が溢れだして、しかも止まらなくなるなんて──俺は知らなかった。

手をつなぐとかそれ以上とか、とにかく他人の身体に触れるなんて今までの俺だったら気持ち悪い以外の何物でもない。
ウイルスとかさ、あるじゃん色々。

手なんてスゲー汚いし、口なんて論外だろって。


「あ、もうこんな時間!」

「え、あ……うん。」
スマホの時計を確かめて、「戻らなきゃだね」と三日月が立ち上がる。
気がつけば、学食のテーブルのほとんどは空席になっていた。

「どうしたの、顔赤くない?」
尋ねられて、思わず手にしていたプレートを取り落としそうになった。

「ッ、なんでもない。」

「えー。」

「本当になんでもないから!」

──三日月の口唇に触れてみたい。
そんなことを考えてたなんて、とても言えない。

だけど、そうなんだ。
俺の頭の中はいつの間にかヨコシマな願望でいっぱい。

手をつなぎたい、抱きしめたい、キスしたい、三日月に触れたい。

頭ん中どーしちゃったんだよって、マジで。
こんなことばっかり考えちゃうなんて、恋愛ってちょっと怖いな。



「ねえ、来週から試験期間だよね。」

「あー、うん。そうだね。」
教室へと戻る道、いつもの廊下だって今までと全然違う。

すれ違うヤツの視線。
それが三日月に向けられるとむかつくし、俺を見てたりしたらちょっと誇らしい気がする。

彼女なんだって誰に言うわけじゃないけど、やっぱりちょっと自慢したい気分だよね。


「佐久早くん、数学得意?」

「……苦手ってほどじゃないけど。」

あ、コレってサインかもって思う。
「一緒に勉強しよう」とかそういうヤツ。

「そっかあ、いいなあ。」

「苦手なの?」

「すっっごいダメー、本当それだけが憂鬱。」

「じゃあ、さ。」

言いかけて、

「うん?」
横から見上げる視線に、言葉が詰まる。

「あー、いや……。」

言えよ!

でも断られたらどうする?
勉強は一人でする派かもしれないだろ?

じゃあ、どうすんの?
古森に聞く?
だけど、そんなのって絶対おかしいし。


「あ、教室着いちゃった。また後でLINEするね。」

言葉にしようとした瞬間から不安になって、結局言えずじまい。
こんなことって何度目だろう。

あと少し、ほんの少し。
その距離が縮まらなくて、また悩みは続いていく。


それに、俺もまだ言えてない。

三日月が好きだ、すごく好き。
見てるだけだった頃よりも、何倍も好き。


ちゃんと、伝えなきゃいけないのに。


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