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■エース! 2

「岩ちゃん岩ちゃん岩ちゃん岩ちゃん……!」

「ダぁぁ───ッ!うっっせーなクソ川、なんなんだよ!」

朝練へと向かう通学路。
迫る足音に振り返れば、いつものウザさ3割増しで及川が飛びついてきた。

「岩ちゃん!」

「だからうっせぇっつってんだろ!殴るぞ!」
朝っぱらからマジでうぜぇ。
誰かコイツ、埋めてくんねぇかな。

そう思って眉間に力を込めると、「だって」とワザとらしい上目遣い。

腐れ縁歴15年(マジで長げぇ……)。
ガキの頃からずっと一緒の「自称」親友の及川。
顔とバレー以外何一つ取り柄がない上に、ウザイ面倒くさい性格悪いの三拍子。

どーせ女にでもフラれたんだろ。
ちょっとモテるからって調子に乗んなよ、ざまーみろ。
と、思ったのが……。


「ウシワカが!!」
なんだ、バレーの話かよ。
と拍子抜け。

ウシワカっつーのは、宮城の強豪校・白鳥沢学園の大エース。
中学高校と俺らが一度も勝てていない、というまさに因縁の相手なわけだが───コイツ、及川はその白鳥沢のスポーツ推薦をわざわざ蹴ってウチでバレーをやっている。
だからまぁ、ライバルっつーか、コイツにとっては因縁中の因縁の相手ということになる。

日頃から過剰にウシワカを意識しすぎているきらいがあるが(ポジションが被っているのは俺の方だ)、とにかくウシワカの話になるといつもの倍しつこくなる及川だ。
どーせ女の話かと半ば呆れかけていた俺は、多少「しょうがねぇな」という気持ちになっていた。

そこに、だ。
及川が投下したバクダン。
いや、むしろ投下したのはウシワカの方か?

そりゃ、俺だって驚いた。

「ウシワカが!ゆいちゃんのこと狙ってるみたいなんだけど!どうしよう、岩ちゃん!」

「ブフゥゥ───ッ!」
予想だにしていない一言に、俺は口にしていたパックの牛乳を盛大に吹き出していた。

「岩ちゃん、汚い!」

「オマエが変なこと言い出すからだろーが!」
スポーツタオルで口元を拭って、「冗談もたいがいにしろ」と言うが───どうやらそうではないらしい。


ゆいは───及川の妹で1つ年下。
年子ということもあり、「超絶仲いいよ!」と及川は言う。
(俺の見たところでは、決してそんなことはないように思われる。)

ゆいは中学時代は私立の女子校に通っていたが、今は県内随一の進学校でもある白鳥沢の生徒だった。


「“彼女の知り合いか?”とかさ!こーんな顔で睨まれてさ!もーアレ、絶対狙ってるって!」
と及川は言う。
二人で一緒にいるところで偶然ウシワカに会い、声をかけられたのだという。
その態度がいかにもゆいに気があるというのだが……果たして本当だろうか?

ウシワカの方は、ゆいが及川の妹だとはどうやら知らなかったらしいが、それを知った今となっては余計にどう思っているかわからない。

「まぁ……一応同じ学校だもんな。」
例え、及川の言う通り最初は「狙っていた」としてもだ。

「だから反対したんだよ!なのにゆいちゃんが白鳥沢なんて受けるから!」

「それは、オマエに口出す権利ないだろ。」
───俺だったら絶対ゴメンだ。
こんなクソうぜぇ兄貴なんて絶対欲しくない。

「岩ちゃんのいけず!ゆいちゃんの大ピンチなのに!」
ギャーギャーと及川はうるさい。


だけど、

「ゆいをウシワカがねぇ……。」

「ちょ!止めて!想像しないで、岩ちゃん!」
もし本当だとしたら……ウシワカってやっぱりスゲーのかもしれん。
さすが絶対王者、ってヤツか?

なぜならゆいは───

「つーかよ、」
及川と似ているのはせいぜい顔だけだ。
コートの外ではからっきしアホなコイツと違って頭もいいし、もちろん浮ついた性格でもない。
というよりむしろ……

「ゆいって、男なんかキョーミねーって感じじゃねぇ?」
女同士じゃワイワイやってるみたいだが、男に対しては相当ツレない。
まぁ、こんなクソ兄貴がいりゃ男嫌いになっても仕方ないとは思うが───まさにそんな感じだ。
実際、その外見にフラフラ惹かれてこっぴどくフラれた連中を何人か知ってる。

「はッ!岩ちゃん、いいこと言った!それはですね、ズバリ及川さんとゆー完璧なお兄ちゃんがいるからでして!」

「いや、それはナイ。」

「はぐぅぅッ??!」

幼なじみの及川の妹。
つまり、俺にとってはゆいも幼なじみだ。
最近は会うことも減ったその顔を───ふと思い出す。

『ハジメくんもさぁ、徹くんなんかに付き合ってたら一緒にバカになっちゃうよ。』

『岩ちゃんはとっくにバレー馬鹿だもんね!』
罵詈雑言で及川をこき下ろし、めげずに返す及川に冷めた視線を送る様子が目に浮かび、思わず口元が緩んだ。

(あのゆいに……?)
アイツに言い寄ろうなんて、もし本当ならやっぱり流石ウシワカ、怖いもの知らずもいいところだ。

これはしばらく及川のウザさは治まりそうもねぇなと思いながら、だけどちょっと面白がってみたりして……

なのに、

(……ん?)
なんだ、コレ?
妙に胸がムカムカする。
俺、なんかマズイもんでも食ったか?さっきの牛乳、賞味期限いつだったっけ?


───この胸のざわつきの正体を知るのは、もう少し先のこと。

だがとにかく、こうして始まったのだ。
俺の、アホくさくて悩ましい日々が。


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