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□ハッピーレイン,ブルーサンシャイン 2

ゆいさんは、俺の所属する白鳥沢バレー部のマネージャーだ。


2年生の川西さんが転校生のゆいさんをバレー部に誘ったんだって聞いた。
それまでバレー部にマネージャーはいなかったから、未経験だというゆいさんは少し大変そうだった。

だけど、いつも熱心にノートを取ってたし、部活が終わった後も監督に話しかけて色々とメモを取ってるみたいだ。
前に通っていた東京の高校では野球部のマネージャーをしていたらしいから、運動部のマネージャーがどういうものかっていうのはある程度わかっているのかもしれない。


俺が、ゆいさんとちゃんと話したのは一回。
1年だけのロードワークから一番で戻ってきた体育館、スクイズボトルとタオルを手渡してくれた時だった。

「早いね、五色くん。部員平均から……えっと、4分26秒も早いよ!わ、すごい!」
キラキラの笑顔でそう言って褒めてくれたゆいさんに、目が釘付けになる。

「あ、ありがとうございますッ……!」
そう答えた声は、少し上ずってしまった。

「バレーはスタミナも大事なんだもんね、ロードワークが強いのは頼もしいよね。」

「え、あ!そうなんです!俺ッ、いつか牛島さんを超えるのが目標でッ!」

「そっかそっか。じゃあ、牛島先輩の記録目指して頑張ろう!」

それから、

「私もバレーは一年生だから、沢山頑張らなくっちゃ。」
そう言って、ゆいさんははにかむように笑った。


多分もう、その時からゆいさんは俺の「特別」になってしまったんだと思う。

4分26秒、平均よりも早くつく。
俺の次のヤツよりは、36秒。
もっと早くなれば、ゆいさんと話せる時間だって増える!

そう思うのに、次からは全然口がきけなくなった。


「あ、りがとうございますッ!」

それだけ。
もっと話したいのに、もっとゆいさんの顔が見たいのに。

だけど、無理。
ゆいさんの顔を見るだけでなぜだか恥ずかしくて、俺は無口になってしまうのだ。


どうして!って思うけど、どうしようもない。
だけど、気が付けば──そんなゆいさんをいつも視線で追いかけるようになっていた。


「あ、五色くん。移動教室?」
部活以外で会ったりしたら大変だ。
だって、制服のゆいさんに会うのって俺には貴重なことなわけで。

「う、あッ、ハイッッ!移動教室ですッ!」

「ふふふ。なんでそんな直立不動なのー。」
思わずビシリと正した姿勢に、ゆいさんが笑った。

「ふぁッ!す、すいません……ッ!」

「だから、なんで謝るのって。」
部活の時のきりっとした感じとはまた違う、ゆいさんの笑顔。
嬉しくて、反射的に俺も笑ったら、今度は手を振ってくれた。

「放課後、部活でね。今日も頑張ろー。」

そんな風に言われたら、張り切らずにはいられない。
一緒にいたクラスのヤツに、「先輩の名前なんていうの」って聞かれたけど絶対教えてやるもんかって思ったし。



その日の放課後、俺に奇跡が起きた。

川西さんが休み。
昨日からクシャミが止まらないとかで、監督命令で病院に行ったらしい。

こんなこと考えるなんて、俺ってもしかして極悪非道の悪党なんだろうか。
だって、川西さんが体調不良なのに──だけど、もしかして部活後にゆいさんに話しかけるチャンスなんじゃないかって、秘かに俺は思ってるから……!


練習はハードだけど、その分やりがいがある。
絶対強くなるんだって思うし、そのために白鳥沢に来たんだ!
俺はいつか牛島さんを超えるスパイカーになって、それでゆいさんとも……!

なんて、何度も「その時」をシュミレーションしているうちに監督の集合がかかって、部活の時間は終わってしまった。


「今日もお疲れ、ゆいチャン。」

「お疲れさまです!天童先輩のブロック、ばっちりハマってましたね。」

「お、見る目ついてきたんじゃない?ゆいチャン。」

「え、本当ですか?じゃあ、もっと頑張らなきゃ。」
体育館を片付けてる間も、ゆいさんと先輩たちのやりとりが気になって仕方ない。

ゆいさんと川西さんはいつも居残りで「勉強会」をしてるらしい。
だけど、今日は川西さんはいないから──だったら俺が!って、部活の間中考えてたこと。

天童さんに誘われちゃったらどうしよう。
白布さんだって川西さんと仲いいし、ありえるかも。

チラチラと体育館の隅を伺って、だけど神様は俺の味方だった……!


「じゃあ、一年生もお疲れさま。鍵締めよろしくね。」
片付けを最後まで見届けて、ゆいさんが背中を向ける。

その瞬間、

「あのッ!!!」
体育館の反対側から叫んだ声に、中にいたチームメイトの視線が集中する。
やべえ、恥ずかしい!

だけど、そんなことなんか言ってられない!


「あのッ、ゆいさん……!今日、川西さんお休みですよね?!」
入り口まで駆けていって告げた声は、やっぱり緊張でこわばってしまっていた。

「うん、そうなの。あ、でもなんか川西くんただの花粉症だったってさっきLINE来てたよ。」

LINEとか!
さすが川西さん、うらやましすぎる!
俺もいつかゆいさんとLINEを……って、今はそうじゃないだろ!


「あ、あの……だったら、いつも図書館で……その、俺が代わりに……あの、」
言いながら、頭の中がぐちゃぐちゃになってもうバクハツしそうだった。

もしかしてすごい図々しいこと言ってるんじゃないかとか、ゆいさんからしたら一年の俺に教えてもらうなんてイヤなんじゃないかとか、今更みたいに不安になる。

だけど、

「本当?」

「う、え……。」

「だったら嬉しいな。五色くん、ありがとう。」

ほら、やっぱり神様は俺の味方だ!


着替えてから、二人で図書館。
目の前には、「あの」制服姿のゆいさん。

それだけだって緊張するのに、距離も近い!
どうしよう、俺……いや!頑張れ、工!おまえはエースになる男だろッ!


「じゃあ、この試合のデータの読み方教えてもらっていいかな。」

「ッはい!任せてください!」
思わずでかけた大きな声に、ゆいさんが「シー」と指先を口唇に当てて、

「す、すみません……。」

謝りながら、めちゃくちゃ照れた。
だって、そんなの可愛すぎる……!

あ、先輩に可愛いなんてやっぱり失礼かも?!

でも、だって……ああ、もう!集中しろ、俺!集中ッ!!!


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