□addicted to you 4
インカレが終われば、目線は秋期リーグに変わる。
夏の練習は暑くてイヤだけど、その季節はもう目前だった。
暑さを増していく毎日の中で、その日は訪れた。
一日の終わりに配られた練習試合の予定表に、見つけた大学の名前。
「お、インカレ優勝校。」
自分だってプリントを持ってるクセに、こういうところが相変わらずだ。
「暑い、寄るな。」
「えー、いいじゃん。」
古森とは、高校からの腐れ縁。
今も同じ大学でバレーをやってる。
「なあ、この大学って牛島さんトコだろ。」
「……そうだね。」
若利くんは、高校時代からの知り合いで1つ先輩。
宮城の強豪校出身で、今は大学の一部リーグのトップ校でプレーしている。
インカレでは、若利くんのとことやる前にうちが負けた。
高校時代とは逆。
若利くんの大学はトップ中のトップで、俺の方はその手前。
本当は若利くんの大学からも推薦の話が来てた。
それを蹴って今の大学に進んだ理由は、二つ。
高校時代に一番のライバルだった若利くんと戦いたい、やっぱりライバルでいたいって思ったから。
それに──もう一つは言わなくてもわかってるでしょ。
「きっついなー、連戦三日目じゃん。」
古森の言うとおり、日程がまず厳しい。
超強豪の大学と試合っていうのに、それが練習試合の連続三日目というのは分が悪い。
「佐久早、調整ちゃんとしろよー。」
「わかってる。」
だけど、高校時代よりは俺だって好不調の波は減ってるし、何より相手はあの若利くんだ。
絶対に負けたくない。
だけどさ、
神様ってのは、結構イジワルな人なのかな。
いや、そんなの最初からいねーのかも。
だって、いくらなんでもヒドイんじゃない?
大学に入ってから初めて、この体育館でゆいを見かけた。
若利くんの大学との練習試合の日、絶対に負けたくない試合の日、それなのに──。
普段は非公開の体育館が、今日は一般に解放されている。
インカレ優勝校との練習試合、普段はバレーなんか知らないってヤツらも体育館に詰めかけてるみたいで、息苦しい。
「……人、多過ぎ。」
「佐久早ー、集中!」
「だから、わかってるって。」
夏の三連戦は、正直キツイ。
だけど、今日のために俺だって慎重に調整してきた。
体調はそこそこ良かったし、肩の調子も膝の具合も悪くない。
飛べる──そんな気がしてた。
「佐久早、久しぶりだな。」
「あー、うん。若利くん、なんかでっかくなったね。」
コートの向こうの若利くんが、こんな風に話しかけてくるのって珍しい。
いつも淡々としてるのになんだか今日は誇らしげに見えるのは、やっぱり優勝校の余裕ってヤツ?
だけどさ、その理由って多分……俺が思ってたのと全然違ったみたい。
試合開始のホイッスル。
相手チームのサーブからスタート。
いきなり崩されて、2-0。
苦しいスタートだけど、こっちもエースで決め返す。
前後に振らされて何度も乱れるけど、今日は古森がよく拾ってる。
俺のスパイクも調子がいい。
打点の高さが気持ちよくて、打ち分けも効いてる。
1セット目を取った。
インカレ優勝校からもぎ取ったセットに、歓声が上がる。
うるさいな。
集中を邪魔されたくない、そう思って意識的に周りの音を遮断しようとした時だった。
体育館を埋めた観衆。
2階の観客席に──ゆいの姿。
え、なんで。
だって、俺の試合なんて一回も見に来たことねーじゃん。
まあ、来いって言ったこともないしさ、仕方ないんだけど。
だけど、ゆいがいる。
それに、目が釘付けになる。
「佐久早?」
「古森、あれ……。」
ゆいだよねと言おうとしたところで、ホイッスル。
あっという間に2セット目。
そこで、気づいた。
(うそ、だろ。)
反対側のコートに向かう若利くんが、スタンドを見上げてる。
その視線が向かう先、そこに──ゆいがいた。
軽く会釈をした若利くんに、ゆいが手を振り返して。
(そんなの、聞いてない……!)
聞いてない、聞いてない、絶対聞いてない。
なんで知り合いなの?いつの間に知り合ってるの?
ていうか、なんだよ。
ゆいは若利くんの試合を見に来たの?
知らない、知らない、知らない、そんなの知らない。
だって、どうして──!!
そこから先のことはよく覚えてない。
完全に集中力は切れてたし、レシーブをミスして、だけどチームメイトの言葉も耳に入らなくて、それで──
「佐久早……ッ!」
こんなことって初めてだよ。
バレーやってて初めて。
レシーブし損ねたボールが顔面に跳ね返ってさ、気づいたら吹っ飛ばされてた。
強烈だな、これ。
打ったの誰だよって、霞む視界の中で若利くんを見た気がする。
ああ、だけど。
今その顔は見たくない、ていうか一生見たくない。
ゆいは俺のなんだよ。
ねえ、若利くん。
取らないで、ゆいは俺のだからさ、だから取っちゃダメなんだって。
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