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□addicted to you 3

部活を終えてすぐ、スマートフォンを開く。


三日月ゆいから届いたメッセージに、自然頬が緩んだ。
部活が始まる前にLINEを送るのは、もう習慣になっていた。

『部活、お疲れさまです。じゃあ、映画かなあ。もうすぐ新作公開だし。』

二人きりで一度会って、食事をした。
見合いの時とは別人の私服姿の彼女は年相応で、すらりとした体型によく似合う服装が街中に馴染んでいた。

また会おうと言ったのは俺からで、すぐに返ってきた了承の返事にまた心が躍る。
「どこか行きたいところはあるか」と尋ねた返事が、いま返ってきたところ。


『いいな。何かおすすめはあるか。』

『リンク送るね。お台場の映画館行って、ちょっと散歩しない?』

小さな画面の中の会話が、とても眩しく見えるから不思議だ。
新しい提案も慣れたやりとりも、彼女とならなんだって楽しいと思えた。


親が言うほどは、俺も堅物じゃない。
高校時代に初めて彼女ができて、それからも幾人かと付き合いはした。

だが、何かをして欲しいという女心が俺にはよくわからない。
相手の求めていることをしてやれず、いつだって相手を悲しませて終わった。
だからもう、しばらく男女交際などは控えようと思っていた時に彼女と出会ったのだ。


溌剌として、いつも明るい彼女。
して欲しいことも行きたい場所も、はっきりと口に出す性格がいいなと思った。
おとなしい女よりも快活な女の方が好みなのだと、彼女と出会って知ったくらいだ。

すべてが新鮮で、楽しくて、輝いて見える。
そんな関係があるものかと、少し驚いている。


「好き、か。」

「え!牛島さん、今なにか言いましたかっ?!」
ロッカールームで呟いた二文字に、黒髪の頭が振り返る。

「いや。」

「え、でも!今!」

「コラー、五色うるせえぞ!」

「あッ!す、すいません……!」

高校時代の後輩で、今は同じ大学の選手でもある五色。
慌てて起立の姿勢を取って頭を下げてから、俺の隣にやってくる。


「今、好きとか……。」

「独り言だ。」

「ええっ、めちゃくちゃ気になります!」

人一倍元気がよくてバレーの腕も確かな後輩を、俺は可愛く思っている。
同郷である俺を五色もそれなりに慕ってくれているように思うし、不思議なもので高校時代よりも互いの距離は近い。


「五色は彼女はいるのか?」
その五色に聞いてみる。

「いますよ!同じクラスの子です!」
語学クラスが一緒の同級生と付き合っているのだと五色は言う。

「好きなのか?」

「もちろん!大好きです!」
こんな風にストレートに自分の感情と向き合える五色が、少し羨ましい。
俺は他人の機微だけでなく自分の感情にも疎いところがあるようで、気持ちを言葉で表現することは特に苦手だった。


「そうか。」

「あの、牛島さん……?」
五色なら彼女になんと言うだろうかとしばらく考えていると、不思議そうな顔をした後輩が俺の顔をのぞき込んでいた。

「いや、五色は素直でいいな。」

「なッ!俺だっていつまでも子供じゃないですよ!大人の男としてですね、こう、結構フクザツに、なんというか!とにかくフクザツにいい感じだったりするんです!」

「そうか。」
少し成長した後輩の今も変わらない部分を見つけた気がして、頬が緩む。


「あ!もしかして何かいいことあったんじゃないですか?!」

「いいことか。」

「そうですよ、笑ってるし!」

「……そうかもしれないな。」

実際は五色のことを考えていたのだが、「いいこと」という言葉に頭の中のイメージはすぐに彼女の顔に切り替わる。

どうやら俺は──相当彼女に参ってしまっているらしい。


会いたくて、声が聞きたくて、スマートフォンの中の文字がこんなにも嬉しい。
もっと知りたいと思うし、触れたいと思う。
けれど、触れるのは少し怖くて、自分の中に臆病な感情があったことにまた驚く。

すべてが新鮮だった。


約束の日には、彼女の言う通りお台場に行こう。
映画を見て、海沿いを散歩する。

話題の新作でもいいし、彼女が好むアクション映画も悪くない。
それで、できれば手を繋ぎたい。

映画の最中がいいか、あるいは終わった後か。
彼女に触れたならきっと、何かが変わる気がする。


溢れる思いの正体も、これから行く先のこともきっと。
二人、見つけられるはずだと、思っていた。


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